2021年 8月号
歯科医院経営を考える(526)
~専従者の認知症~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
ある先生から相談の電話が入った。奥さん(専従者)が歯科医師会から送られてきた書類を従業員に渡してしまったら、そこにはコロナ感染に関するワクチン接種の問題や個人情報に関係する内容が書かれていたために、従業員間に広がり問題になってしまったので、どうしたらいいかという。以前にも各個人に配布する給与計算明細書を間違って渡してしまったために、お互いの給与額が分かってしまい気まずくなった例がある。いろいろ聞いてみると、その奥さんが軽い認知症になっているというのである。最近は時々ふっとおかしい行動をとることがあるという。三十数年間専従者として経理や給与計算、カルテ等の整理やスタッフの管理に至るまで、全て取り仕切ってきた専従者である。とりあえず早急に経理の仕事を外して通いで来る長女に任せる、それ以外のカルテ整理や書類の整理もできるだけ早く外すよう話したが、何故私を外すのかと言い納得しないのだという。今の奥さんの立場からすれば、今まで第一線で活躍して、院長を支えてきたという誇りがあり、自負があり、腹立たしい限りであろうと思う。奥さんのプライドが許さないのだと思う。だとすれば、なおさら時間をかけて、丁寧に納得できるように話しかけていくべきである。同時に長女を介在させてできるだけ早く引退に導くべきだと思う。専従者という立場は、微妙な位置である。経営的には院長の右腕として、場合によっては経営者として判断し、行動しなければならない立場だ。一方従業員に対しては、経営者としての立場と、院長に対しては従業員のトップとして対峙するという立場に立つ。だから二面性の顔を持つ。従ってその専従者が認知症になれば医院の経営危機と判断するべきである。本人のプライドに配慮しつつ、できれば早急に有料老人ホームに入れて、残りの人生をゆっくり過ごせる機会を設けるべきである。有料老人ホームは決して安いものではないが、将来を見据えて院長自身の将来を考え、真剣に考えておく必要があると思う。
(つづく)
〔タマヰニュース2021年 8月号より転載〕