コラム

今月のコラム

2010年 11月号

歯科医院経営を考える(398)
~根管治療と混合診療~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 某TV局が放映した「歯医者のソントク」という番組が面白かった。日本は治療費が安いから「ソンをしている」という。1人平均年間4万円の歯の治療費を払っているが、ハブラシを使って歯垢を取り除き、定期的に歯科医院へいって検査を受け、磨き残しの歯垢を除去してもらえば歯は長持ちして年間1万円程度で済むのだという。だから歯科医院に定期的に行って検診を受けるのがトクだというわけである。自分の歯を大切に磨いて、虫歯にならないよう注意するという意識が低いことが問題として取り上げられていた。

 

 日本は保険制度が完備しているから、歯の治療代が他の先進国に比べて安い。しかしそれが逆に患者の歯への意識を低くしているというのなら問題である。そのTVの番組で、東京医科歯科大学の川渕孝一教授の調査した資料が紹介されていたが、1本の歯の根管治療の治療費の国際比較では、日本が5,839円、アメリカが108,011円、イギリスが92,220円、フランスが43,920円、スイスが36,601円だそうである。計算根拠は不明だが、アメリカの18分の1の治療費であり、他の先進国の治療費と比べても余りにも低い治療費である。根本的な制度や治療点数の見直しが行われないまま放置されてきた結果がこの金額だと思う。

 

 知り合いの先生が、アメリカで歯内療法の専門医だった先生の「歯内療法研修会」に参加して帰ってきて嘆くことしきりである。ストレスが溜まってしようがないという。講師の先生は東京で「歯内療法専門医」として自費で治療をしているというが、自費診療できる環境ならよい。現実は下町の住宅街である。目の前の患者を前にして根管治療を自費でとはなかなか言い出せない。根管治療後はすべて自費診療扱いになるというから負担が極端に大きくなる。しかし研修を受けた治療内容は、日からうろこの理想的治療法であったから、良心にさいなまれてストレスになるのである。「全ての歯の治療を保険で」というのは理想である。しかし一方で医療財政がひっ迫しているという現実も直視せざるを得ない。しかし理想的でレベルの高い治療法があるのなら、他の治療は保険を使い患者の同意を前提にして、高度な治療内容を自費診療で患者負担にしてもらうというのは合理的かつ現実的な方法ではないのか?混合診療を拒否する厚生労働省のかたくなな対応は理解しがたい。

 

 理想的な方法の根管治療を、自費診療で行う歯内療法専門医の歯科医院で根管治療だけを受け、保険診療の歯科医院で補綴治療を受けた場合は、果たして混合診療になるのか?その場合はどのような理由で問題になるのだろうか?

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2010年11月号より転載〕