コラム

今月のコラム

2011年 10月号

歯科医院経営を考える(409)
~人間の責任とは何か~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 9月10日に放映されたNHK総合TVの、白熱の哲学講義で有名なハーバード大学のマイケル・サンデル教授が、アメリカのハーバード大学、中国の復旦大学と東京(各会場とも8人ずつの学生が参加)を結んで実施したTV討論「究極の選択、何が公正か」は、なかなか面白い内容だった。

 

 2008年に起こった中国の四川大震災では死者、行方不明者が78,000人、被災者4,600万人という震災であったが、この復旧、復興には裕福な上海市や広州市が被災地を強制的に割り当てられて、お互いに支援競争をさせられたという。中国では家族の絆が強固で裕福な親族が貧乏な親族を支援するのは当たり前であり、国も国民全体でみれば家族なのだという。一方アメリカではハリケーン・カトリーナがマイアミを襲った時も多くの被災者が出た。死者・行方不明者が2,000人、損害額は1,350億ドルだった。住宅を失った人には国が補償したが、その時は以前に住んでいた住宅の価値によって最高15万ドル(80円換算で1,200万円)受け取った人もいれば、ささやかな住宅に住んでいる人は、わずかな補償であったという。東日本大震災の日本では仮設住宅、壊れた家の応急処置に対して国が補助したが、失われた個人の家は貸付に留めているという。また2001年アメリカで起こった9.11同時多発テロで犠牲になった遺族に対しアメリカ政府は遺族に対して補償を行ったが、その時の基準は生前の所得額に準じて保証されたという。こうして見ると補償といっても国によってかなりその考えや内容が大きく異なっている。アメリカは国と個人が社会的契約を交わしているという視点に立っており、所得の高い人は高い税金を支払っていたという事実からも当然という認識である。中国は家族という発想だが、日本の場合は、日本人は皆同じ人間だからという発想で極めて連帯意識の強い社会であり、名目はどうあれ命の値段に差をつけることに強い反発を感じる。

 

 さて福島の原発事故の責任はどこにあり、誰が責任をとるのか。一番の責任を取るのは東京電力なのか、認可した政府にあるのか、電力を利用している東京近郊の人にも何らかの責任はあるのか、経済的な恩恵を受けていた地元の人、あるいは原発を認めた国民全体に責任があるのかとマイケル教授は問う。そこで補償を次のどれで賄うか、①税金、②借金もしくは国債、③東京電力及び東京電力の株主、④原発の電気を利用していた東京電力の利用者、を挙げて参加者に聞いている。その結果、①で賄うと回答したのは7人(内日本人は4人)、②は2人(同0人)、③が11人(同4人)、④が2人(同0人)となっていた。国債の発行や借金で賄うというのは、原発利用の賛否に参加していない子供に何故付けを払わすのか?という若い参加者の率直な意見である。最後にサンデル教授は「人間の責任とは何か」への答えとして、「人々の善意や良心に希望を持ち続け、人々が同じ社会で-緒に生きていく中で価値を感じ続けられる」ように考え、行動することだという。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2011年10月号より転載〕