2013年 9月号
歯科医院経営を考える(432)
~マイナンバー制度の問題点~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
税と社会保障の情報をまとめて管理するための共通番号「マイナンバー制度」の導入が平成25年3月24日の通常国会で法案が成立、平成27年秋までには「個人番号」(11桁の数字)と「法人番号」が配布され、平成28年1月から本格的に運用される見通しとなった。これは我が国の場合、基礎年金番号、健康保険被保険者番号、パスポートの番号、納税者番号、運転免許証番号、住民票コード、雇用保険被保険者番号等を、縦割り行政の各行政機関が個別に番号を付けていて、国民の個人情報管理に関して重複投資をしており、行政サービスを包括するものが存在せず、無駄な投資が多いとされている。行政をもっと効率よく運営していくためには国民に背番号を付けて一元管理することは、今の時代不可欠なことは理解できるが、本当に安全なのか?いささか不安を感じざるを得ない。
アメリカでは社会保障番号、イギリスが国民保険番号、イタリアが納税者番号、ドイツが税務識別番号と先進国のほとんどは国民に番号を付けて税務や社会保障の充実のために管理している。(但しフランスには納税者番号もない)韓国では1968年から国民5011万人の住民に全て住民登録番号が付与されており税務はもとより、社会保険、年金、住民登録、選挙、兵役、教育、諸統計に利用されているが、2011年7月、中国のハッカーに全国民の7割に近い3495万4887人分の個人情報が盗まれるという事態が発生し、大問題になり再検討すべきだという議論が起こっている。
わが国の場合、2002年に導入された「住民基本台帳ネットワークシステム」(通称「住基ネット」)は3000億円が投資されて制定されたが、問題とされたのは、①ハッカー等による住基ネットへの不正侵入、②住基ネットにかかる構築費用や運用経費に対して国民に提供されるサービスがあまりにもお粗末(平成24年3月末の時点で発行されている住基カードはわずか656万枚である)、③住基法の国会審議に際し、政府は個人情報保護に「万全の措置を講じる」と約束し、同法の付則に「所要の措置を講ずる」との文言が挿入されたが、「個人情報保護法」を未制定のまま住基ネットをスタートさせたという事実、④国家による国民の監視・管理につながる危険性等が指摘されている。「マイナンバー制度」の導入で全国民に背番号を付けて、住基ネットに結び着ければ、全てについて名寄せが可能となる。社会保障制度との関係から、所得だけではなくその個人が所有する不動産や金融資産の把撞にまで及ぶと④の問題が浮上してくる可能性もあり、その運用面でどこが行政に抑制監視をするかが大きな課題だと思う。
歯科医院の立場で言えば、患者の一人一人に背番号が付加されるからレセプト等の書類作成が重要になるし、取扱いを厳重にしないと個人情報保護法に抵触し、患者から訴訟を起こされるリスクが大きくなると思う。
(つづく)
〔タマヰニュース2013年 9月号より転載〕