コラム

今月のコラム

2008年 7月号

歯科医院経営を考える(370)
~ホスピタリティーの厚い歯科医院を~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 筆者のような仕事の場合、出張が続くときはどうしても外食になるケースが多い。ある日岐阜に出張して駅で夕食を摂る事になった。岐阜駅のビルターミナルの1階にお惣菜屋さんがある。この店でお惣菜を買って帰る人もいるが、筆者のような出張族や観光客には、その場で食べられるように机や椅子が置いてある。値段は「肉じゃが」500円、「きんぴらごぼう」400円、「サラダ」300円、「串焼き(鳥肉、牛肉)」500円、「なすの油炒め」300円、「チャーハン」(小)200円、「ウ一ロン茶」50円、〆て2,250円也である。駅ビルにこのようなお惣菜屋さんが入っているのは珍しいが、値段は一般のお店に比べるとかなり高いと思う。それでも駅構内にあり便利だからひっきりなしに客が入る。当然家賃はとてつもなく高いはずである。少なくとも坪2万円~3万円はすると思う。お惣菜のような単価の安い商品を売る場合は、かなり厳しい経営になるはずである。当然、セルフサービスで、茶碗や皿はなし。お惣菜を買ったときに入れてくれるパックに入れて、そのまま食べることになる。いささか情緒に欠けるが、便利だからついこういう場所で食事をしてしまう。

 

 歯科医院でも駅前の立地条件のよいところで開業すれば当然家賃は高くなる。駅前ともなれば坪2万円とか3万円はするから、保険診療だけでは採算が取れない。歯科医院の収入に対する家賃の比率の平均は3.4%だが、最高は20.6%で月額110万円である。この歯科医院は東京都内で開業している先生で、ビルの1階で開業しており、スタッフがゼロ(夫婦2人、奥さんも歯科医師)だから成り立っている。家賃の比率を高くとも15%以内に抑えないと家賃倒産になる可能性が高い。だから保険診療のみではこのような高い家賃の支払ができないのである。立地条件がよければ患者に困る事はないが、高い技術を売りにして高級補綴を手がけないと採算が取れない。こういう立地条件の歯科医院の場合、診療方針を定めて自費診療を中心に診ないと経営維持が難しい。レベルの高い技術を維持しようとすれば、ドクターがせいぜい2~5人程度でないと難しい。ドクター間の技術格差が大きいからである。しかし今後安定した経営ができるのはこうした突出した技術をもった中規模歯科医院ではないかと思う。高級補綴に限らず、家賃の高い場所でなければ、歯周・予防に重点を置いた歯科医院でも安定した経営ができると思う。分院をいくつも持っている医療法人の場合、保険診療が中心になっているが、今後の点数改定の内容によっては経営が行き詰まるところも出てくるのではないか

 

 では小規模の歯科医院の場合、将来性はどうか。「行列のできる歯科医院」のNo.4が発刊された(今回は女医先生特集である)が、その中で女医先生が1人の歯科医院では、リピーターに特化した経営をしている田んぼの中の歯科医院であった。口コミで紹介されてくる患者だけを対象にした歯科医院で、遠くから来院する患者は近くの歯科医院に紹介してしまい、口コミ及び紹介の患者だけを診るという診療姿勢の歯科医院であった。保険診療が中心で、自費診療も平均より高い比率であったが、徹底した信頼関係作りを基本とした、ホスピタリティーの厚い歯科医院であった。今後の小規模歯科医院の一つの方向を示しているように思う。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2008年7月号より転載〕