コラム

今月のコラム

2013年 4月号

歯科医院経営を考える(427)
~TPP交渉と医療制度改革~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 政府はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉参加に踏み切った。日本は貿易と技術で成り立っている国であれば、遅かれ早かれ参加せざるを得ない状況にあることも事実だと思う。従って今後の交渉次第ということになるが、国内産業保護を目的に主食の米に778%、小麦に252%の関税をかけて保護し、農業者個別所得補償制度では農業外収入が平均450万円もある零細農家まで補償する必要はないと思う。こうした一連の政策が米農家の競争力を弱め、経営体質を落としてきた。しかしその政策が今後裏目に出る可能性がある。国の食料安全保障という視点も重要だが、体力を弱める政策では元も子もない。これを機に農業政策の根本的に見直しが不可欠だと思う。

 

同時に司法、医療、薬品、教育、郵政に関する問題や人の移動(入出国)の自由化もTPP交渉で課題になってくる。特に保険制度についてアメリカのUSTR(アメリカ合衆国通商代表部)は「医療保険制度を民営化するよう強要する協定ではない」、また「混合診療を含め公的医療保険制度外の診療を認めるよう要求する協定ではない」としているが、そもそもTPPはシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国で調印し、締結した協定であり、アメリカ自身も加盟交渉の途上にある。アメリカの他にオーストラリア、カナダ、メキシコ、マレーシア、ベトナム、ペルーが加盟交渉中と言われているが、日本が加入すれば、アメリカと日本だけで域内の経済規模(GDP)の約81%を占めると言われているから、経済の規模からいえばほとんどアメリカと日本の交渉になるのではないか。だとすれば参加して発言権を確保するという選択肢が重要になる。小宮山前厚生労働大臣は、TPPにおいてアメリカ政府は日本の医療自由化に関心を持っており、米豪FTA交渉においてオーストラリアは公的医療保険による薬価負担制度の見直しを要求され市場価格並みの高い価格が設定できるよう制度が改められたという例を挙げている。交渉の過程では当然国民保険制度の機能縮小、混合診療、病院の株式会社経営の認可等要求されることは必定だろう。

 

財政が厳しい中、また対外圧力が増すなか日本の財政や経済に見合った制度やシステムに造り替えていくべきだと思う。ただ日本の公的保険制度は世界に誇るべき制度として死守すべきであり、だからこそ時代に見合った、財政に見合った制度に変えていくべきである。例えば歯科医療においては根管治療等の基礎治療は点数を引き上げ、補綴物については保険外診療にする等の抜本的な制度見直しが不可欠だと思う。それは歯科医院経営の現実と財政危機を直視すれば避けられない制度改革だと思うからである。今年度から臨床研修制度が改正されて、医学部5,6年生が臨床実習において医療行為を行えるようになるという。歯科の臨床実習でもただ見学するだけという従来の制度が改められると思うが、アメリカではメディカルスクールの3、4年次には、注射はもとより簡単な開創術さえ行えるという。こうした現実に合わない制度やシステムを見直すよい契機にすべきである。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2013年 4月号より転載〕