コラム

今月のコラム

2009年 5月号

歯科医院経営を考える(380)
~寺院の経営~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 今年の桜は、咲き始めてから低温の日々が続いたから、半月ほど咲き続けて鑑賞期間も長かったように思う。たまたま時間がとれたので奈良県・吉野の桜を見に出かけた。吉野の桜は一目千本といわれ、下千本、中千本、上千本に分かれていて、うまく開花時期に訪れると全山が桜の花に覆われ、眺めが最高になる。中でも如意輪寺(後醍醐天皇陵があり、南北朝時代の武将、楠木正行が天皇に別れを告げ、寺の扉に辞世の句を刻んだという)からの眺めが穴場で最高の眺めである。

 

 その如意輪寺では1本に付き8万円を支払うと、桜の木に名前を付けて管理するというサービスをしている。なかなか面白いアイデアだと思う。桜が増えてお寺も潤うし、観光客も自分が付けた名前の桜があり存在感がある。政治家や有名人の名前も見かける。それにしてもなかなか商売熱心なお寺である。寺院経営も檀家が多い場合は、安定した経営ができるが、檀家の少ない寺院は極めて経営が苦しいのが現状である。如意輪寺の檀家はどのくらいあるのか知らないが、寺院経営の損益分岐点は檀家数250~300軒である。入園や宝物殿への入場料400円、お守りをはじめ数珠、線香、楠木正行絵入りローソク、寺号紋入り葛菓子等々の品を販売しているところを見ると檀家が多くはないと思う。筆者も寺に生まれたから分かるのだが、今どきの寺院経営は、ただ広大な敷地の寺宝や建物、庭園を維持していくことは並大抵のことではやっていけないのである。精神的な拠り所としての寺院の存在が薄れていく中、信者を獲得していくことが極めて難しい現実がある。そのような中で、信仰を深めて檀家をしっかりつなぎとめていく寺院と、観光に依存した一部の寺院とに二分化してきているように思う。

 

 歯科医院経営もそうだが、一般大衆の求めに応じて医院経営も変えていかねば成り立たない。ただ歯の悪い患者の歯を治療するというだけの歯科医院は徐々に淘汰されつつある。筆者は1年半ほど前から顎関節症に悩まされているが、咬合面がかなり磨り減っているのが自分でも分かる。当然若い時のような噛み方ではなくなり、顎関節も狂ってくると思う。同年輩の人に開いてみると意外に顎関節症にかかった人、今現在かかっている人は多い。今後高齢社会になると筆者のような顎関節症の患者が激増するのではないかと思うが、顎関節症は口が開かないとか、痛くて我慢ができないという場合は別だが、不自由しながらでも何とか我慢ができるから、多くの人は我慢し、ひどく痛むとか口が開かないという人が歯科医院を訪れているのだと思う。何故かと言えば、確信的な治療体系ができあがっていないからか、あまり熱心に治療してくれないからである。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2009年05月号より転載〕