コラム

今月のコラム

2008年 5月号

歯科医院経営を考える(368)
~歯科医療の技術習得~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 NHKテレビだったと思うが、ある人材教育の会社が、新卒採用の入社試験に、普通の試験は行わず、あるテーマを与えて、自分で回答を見つけ、それを試験官の前で説明するという試験を紹介していた。将来は教育コンサルタントになるという人材のようだが、なかなか面白い。今日本の教育で一番欠けているものだと言われている。回答のない問いに対して、自分の頭で考える論理性と、現状の認識、目的、そのための手段を見つけ出すことが不可欠である。

 

 著名な経営コンサルタントである大前研一氏は、義務教育は「社会人」を、大学は、「メシの食える人」を作れ、と提唱し、文部科学省は大学を中途半端にアカデミックなものにしてしまったと嘆いている。それには、「英語」、「ファイナンス」「IT」と「リーダーシップ」が不可欠だという。「ファイナンス」とは、会計、経理に関する資産、負債、損益、キャッシュフロー、資金調達や資金運用等に関する知識を指している。ITはコンピューター関連の知識であり、ハード面やソフト面の知識、技術である。さらに「リーダーシップ」とは、「人をまとめて目標を達成すること」である。これらを駆使して問題解決に当たるという姿勢が求められているというのである。

 

 ヨーロッパでは有名な大学を出ただけでは誰も雇ってくれないという。面接では「あなたの経歴の中で、何か経歴書に書いていない特筆すべき経験がありますか」等といった質問を受けるが、資格や免許といったものではなく、ボーイスカウト2年目にヘッドになったとか、野球部のマネージャーを務めて部費を預かっていたといった経験を5つくらいは持っていないと、有名な企業へは入れないという。知織、技術だけではなく、人を引っ張っていく指導力、まとめる力、コミュニケーションが不可欠ということである。

 

 以上は一般企業での人材育成の問題である。歯科医院経営においての人材育成は?と考えると、一般企業と似たような問題に直面する。何よりも歯科の場合は、技術である。診断技術、治療技術が不可欠だと思う。其の他に不可欠なのは、「ファイナンス」、「リーダーシップ」である。ITは常識程度で充分だと思う。前者は厳しい環境での経営では不可欠であり、後者はスタッフのやる気を引き出すことが経営の良し悪しを決定するからである。

 

 3人の勤務医を雇用されている院長先生からメールをいただいた。 「面接時点では、とても志が高いと感じた人たちが、実はそうではなかったケースが続いております。定着できなかった若い歯科医師に共通して見受けられるのは、レベルの高い治療に対して憧れはあるものの、こつこつとした基礎的な勉強や仕事を嫌がる傾向にあり、我がままというか、我慢が不足している点です。レベルの高い治療を習得するためには、それ相応の努力が必要だと思いますし、そのためにはしっかりとしたラーニングステージを踏んでいくことが大切だと考えているのですが、なかなか理解してもらえません」と。何の技術でもそうだが、技術というものは、こつこつ積み上げるものである。1~2年程度の研修で取得できるというものではない。最低5~6年、長ければ10年はかかるのではないか。 最高の技術レベルを100とすれば、60~65程度、患者が文句を言わない程度で満足してしまうケースが多いように思う。それよりも手っ取り早く患者が増えるマーケテイングだとか、患者応対に興味を持ってしまう。興味を持って悪い事はないが、技術習得を最優先させるべきだと言いたい。歯科医療は息の長い勝負だからである。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2008年5月号より転載〕