コラム

今月のコラム

2011年 11月号

歯科医院経営を考える(410)
~日本で一番大きい歯科医院~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 日本で一番大きい歯科医院と言われる医療法人徳真会グループの理事長松村博史先生が「日本でいちばん大きな歯医者の秘密」という本を出しておられる。国内25か所、中国に9か所の歯科医院を経営されているという。今年の6月現在で、歯科医師数が180人(内中国が80人)、衛生士180人(内中国が80人)、助手受付350人(内中国が100人)で、年間の患者数は80万人だという。また今年の12月には東京都稲城市に敷地面積2000坪の診療所を開設予定だという。文字通り日本一の歯科医院だ。もう25年前になるが昭和61年に訪問した記録がある。スタッフ教育と医療法人の設立に関係しての訪問であったと記憶しているが、強烈な印象のある先生であった。それは待合室に「抜歯○○円」「全顎義歯○○円」といった価格表が、寿司屋のように貼ってあったことである。標準的な治療の場合の患者負担分の金額だったのだと思うが、発想の斬新さに驚いた記憶がある。当時はまだまだ患者が多く、多額の借金をしても、1年もすれば借入金の重さを忘れてしまうほど収入が上がった時代である。その頃から経営の専門スタッフを置いておられたというのも強い印象として記憶している。訪問した時に松村歯科医院の診察券や名刺入れのような皮製の診察券入れ(?)を頂いたが、そこには「1回の予防は百回の治療に優る」と書いてある。当時すでに一般歯科、小児歯科、矯正とともにインプラントも手掛けておられたが、松村先生に先見の明があったのだろう。医療法人徳真会グループとなっているように歯科医院だけでなく、技工部門の株式会社ワールドラボそれに経営をサポートする株式会社ゼネラルスタッフの3部門を確立させていることである。それと徳真会の強みは技工部に人材を集め、アメリカに歯科医院ではなく、技工の会社を作って徹底した技術教育をし、アメリカのセレブの厳しい要求に応え得るレベルの高い技工士を養成していることである。技工部門を持つ医療法人は多いが、経営指導を専門とする会社を持つ医療法人はないのではないか。最近は新規開業しようにも開業する場所がなくなるほど過密状態である。ということは新人の歯科医師が開業できず、開業を諦めて勤務医になるケースが増えている。しかしこれは大きい歯科医院にとっては追い風になる。優秀な歯科医師の人材を集め、高度な技術力をつけ高い品質の補綴物をアメリカから取り寄せて日本のセレブに満足を与えることができれば、徳真会は更に発展する余地があるのではないか。

 

 今後の歯科医療の財政を展望したとき、現在のような公的医療保険によって歯の治療ができるという環境は早晩縮小していくのではないかと思う。福祉が充実しているデンマークでさえ、成人の歯の治療は患者負担が80%であり、成人の矯正、クラウン、ブリッジ、可搬性パーシャルデンチャーは全額患者負担だという。日本の現状では良質な治療が単価の低い保険によって頭を押さえつけられている現状から、徐々に患者負担が増えていく環境を想定すると今必要なことは高い技術力を身につけておくことが不可欠ではないか。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2011年11月号より転載〕