2013年 3月号
歯科医院経営を考える(426)
~院長の自己反省~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
大阪市立桜宮高校バスケット部の男子生徒が自殺した問題が社会問題となって波紋を広げている。大阪市の教育委員会はバスケット部の顧問による暴力で生徒が重大な精神的苦痛を受け、自殺の大きな要因になったと結論づけている。大阪市の外部監察チームがまとめた報告書を見ると、ルーズボール(こぼれ球)の練習をさせたが、近くに投げているのに「ボールに飛びつこうとしない」ので顔を平手で1~2回たたいた、とかタイムアウト時に走らずにべンチに戻ってきたために顔を平手で3回たたいた、といった状況が報告されている。これを読むと、その生徒が明らかにやる気をなくし、信頼をなくした態度をとっていることが分かる。スポーツに限らず、指導者と選手間の信頼関係なくして、優れた成績等出せるわけがない。乱暴な言い方だが指導者が少々体罰を行っても、受ける側が指導者に信頼を置いている場合は、それを体罰とは認識しないのではないか。運動部のある教師が「体罰の禁止」によって指が触れても「体罰だ」と訴えられるのではないかと心配しているとインタビューに答えている場面があったが、それは生徒との間で信頼関係を作らないからではないか。
過去3回全国優勝を達成した智弁和歌山高校野球部の高嶋仁監督は「愛情を持って手を出す」等ということはあり得ない。監督自身が早く成果を出さなければと焦りを感じて、つい「何をしているのか」と感情的になって手が出てしまうのだと話している。いかにやる気を出させるか、一人一人に向き合って、なぜそれが必要なのかを徹底して教え理解させることが大切だと断言している。筆者の知り合いで、ボランティアとして少年野球の監督をしている人がいる。彼は普段は恐ろしく厳しいことを言い、かつ怒鳴り散らして練習させるが、試合で負けた時は少年たちに「よくやった!よくやった!」と言い、少年たちと一緒に大声で泣いて悔しがる。そういう監督に少年たちは一体感を感じ全幅の信頼を置いているのだと思う。高嶋監督は月に2回、夜中の2時に起きて高野山の山道を20km歩いて、自分を見つめる機会にしているという。そうすることでいろんな面から選手を見ることができるようになったと述懐されている。
監督あるいは指導者というものは自分の専門技術や知識だけでは、指導はできないのではないか。人間的な広さと、深さが不可欠なのではないか。誰しも完全な人間はいない。だから自分の未熟さを知り、その足りなさを知る努力をする。弱い人間を自覚して努力を積み重ねる謙虚な姿勢が必要なのではないか。ある歯科医院の院長とのお付き合いをしてもう6年近くになる。当初は何を言っているのかハッキリしない言い方で、スタッフに厳しく、失敗するとすぐ減給にするという先生だったが、スタッフが採用するしりから退職していくことに困り果て、自分のどういう考えが間違っているのか、どういう対応が悪いのか悩み抜き、自己反省することが多くなるにつれスタッフの退職も減り、今では実に和やかな雰囲気の歯科医院に変身している。自分と向き合うことでスタッフの心が見えてきたのではないか。
(つづく)
〔タマヰニュース2013年 3月号より転載〕