コラム

今月のコラム

2008年 2月号

歯科医院経営を考える(365)
~情熱と戦略~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 昨年9月に竹中平蔵先生(現慶応大学教授)の講演を聴いた。竹中先生は、2001年の小泉内閣で経済財政政策担当大臣、2002年に金融担当大臣、2004年には郵政民営化担当大臣を兼務し、2005年には総務大臣を務めた人で、小泉元総理の下で行財政改革を推し進め、その中心となって働いた人である。特に小泉首相の「郵政民営化」は自民党内に猛反対を巻き起こし、造反議員を数多く出しながらも民営化を実現した政治的事件であった。郵政公社は、貯金規模において世界最大の金融機関であり、正規雇用者が26万人、非正規雇用者が12万人、経常収益23兆円、保有資産370兆円という途方もない規模の民営化であった。自分が所属する自民党内でさえ反対派が多く、野党も反対する中、民営化できたのは何であったか。竹中先生は、それをリーダーのパッション(情熱)と戦略だという。戦略も大きい目標を設定し、鳥瞰図に基づいた細部にわたる一つひとつの作業の積み上げだという。

 

 民営化が表面化する前の2003年6月25日、赤坂プリンスホテルの中華レストラン「李芳」で会食すると公表されていたので新聞記者が多く詰め掛けている中、夕刻到着すると、小泉総理は秘書官をそこにおいたまま、竹中先生を連れて厨房室に入り、その奥にあるエレベーターで上層階の会議室に駆け上がったという。そうするとそこには民間出身で、当時の政府の会議や関係機関の要職にあるトップが呼び集められていた。着任したばかりの生田公社総裁も呼ばれていたという。その生田総裁の前で、「生田さん、あなたは最初で、最後の郵政公社の総裁になる。そう、最初で最後だ!」と断言したという。「ついにその時が来たか!」と思ったと竹中先生は言う。その後は衆議院の解散、自民党の圧勝と大きく時代が動いたが、竹中先生はその後マスコミや民主党議員から袋たたきに会うが、その都度、夜遅くても小泉総理から何回も激励の電話が入ったという。

 

 後から批判することは誰でもできる。何よりもリーダーたるものは、強い信念を持ち、それに全ての情熱を傾けることでなければならないと思う。そうして周囲の一人ひとりの心に情熱を注入していかなければならない。その上で目標に向かって木目細かい事実を積み上げていかなければならない。

 

 規模は小さくても方法は同じである。歯科医院の経営環境は年々悪くなるばかりだが、今の歯科医療をどうしたいのか、医院の使命は何か、患者に何を訴えたいのか。歯科医療を通して何を訴え、何をしたいのか、自己の信念を見つめ、それに情熱を傾ける目標を明確にするべきである。

 

 目標が大きいほど抽象的な表現になる。「地域住民の健康に貢献する」等といっても、スタッフは何をどうするのか検討もつかない。地域住民とは誰の事を言っているのか、貢献するとはどうすることか等々、具体的に内容を噛み砕いて説明すべきだ。それを日々一つひとつ積み上げる過程で、いろんな問題がでてくる。中にはすぐカッとなる短気な従業員もいる。そのようなスタッフには穏やかに話しながら、意識を自分に向けるよう話しかけることが重要になる。また不注意なスタッフもいる。注意力が散漫になっている事実を指摘して、集中力を絶やさない訓練が必要になる。それぞれの個性に合わせて注意の仕方や考え方を話しかけることを通じて、スタッフの自己成長を促すと同時に、院長自身も成長することこそ、一番大きい目標なのかもしれない。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2008年2月号より転載〕