2009年 12月号
歯科医院経営を考える(387)
~特措法26条のゆくえ~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
先日正倉院展にでかけた。天平時代に作られた帳簿類が出ていて興味深い内容であった。「計帳」というのは調や庸といった租税を徴収するために作成された古代の住民台帳だが、神亀3年(西暦726年)の計帳が展示されていた。山背国愛宕郡出雲郷(現在の京都市上京区から下京区にまたがる地域)の計帳(徴税の基本台帳)である。計帳の作成は、先ず各戸に手実(しゅじつ)という「申告書」を提出させ、それに基づいて「歴名」(れきみょう)という「名簿」を作り、そこに記された人数や課税額を計算して「目録」にまとめられたという。税金を課税するための資料を提出(申告)させていたというが、現在の確定申告にも似ていて面白い。出展されていたのは出雲臣(いずものおみ)文田を戸主とする計帳で、冒頭には戸主名に続いて前年の計帳からの構成員の出入りが記帳されており、「課口」(かこう:税負担者)等の人数と調の税額が記載されている。72歳の戸主文田をはじめ男9人、女10人の計19人の所帯で、「右頬に黒子がある」等と各人の身体的特長まで記載されている。息子の忍人(おしひと)は「左大臣資人」の職に就いていたとある。(「資人」とは大臣等の下で警護や雑務に従事する役で、当時の左大臣は長屋王であった)1283年前の徴税制度だが、予想以上にしっかりした徴税制度であることに驚く。
さて平成の徴収制度はどうか。政権の座に就いた民主党のマニフェストには、「公平で簡素な税制を作る」と方針を示している。先ず税制方針として、「税制の既得権益を一掃」し、「租税特別措置法の効果を検証し、税制の透明性、信頼性を高める」としている。その具体策として、
①租税特別措置法の適用対象を明確にし、その効果を検証できる仕組みを作る。
②効果不明のもの、役割を終えた租税特別措置法は廃止し、真に必要なものは、「特別措置」から「恒久措置」へと切り替える、としている。
このような経緯からみて、租税特別措置法26条の廃止は確定的になったと思う。これが廃止された場合、経営規模の小さい歯科医院に大きい影響が出てくると思う。だいたい保険診療収入が5000万円以下で、総経費率が65%以下の場合であると措置法26条を使った方が税務上は有利になる可能性が高くなる。現在でもこの措置法26条を使って申告している先生は7%程度はいるのではないか。
また保険診療収入に対する事業税の問題は近い将来課税の対象とされるのではないか。事業税は地方税であるが、これはもともと学校医の報酬が当初極めて低く、それを補填する意味もあって保険収入に対し事業税を低くするという合意がされたと聞いたことがある。(真偽の程は確かではないが…)最近校医手当も徐々に引き上げられてきており、もしそのような合意の下での課税免除であるなら課税が検討される可能性は大きいと思う。
(つづく)
〔タマヰニュース2009年 12月号より転載〕