2009年 10月号
歯科医院経営を考える(385)
~小規模だからこそ経営戦略を~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
今年の夏は夫婦でスイスに8日間の旅をしてきた。行く前は欧州の一小国で精密機械の時計の生産が有名で、永世中立国だということぐらいしか知識がなかったが、いろいろ見聞してみて、スイスという国は実にしたたかで、賢い国だと思った。
九州ほどの大きさに人口は約760万人、26の州で成り立ち1291年にスイス連邦が成立している。スイスの各地の諸侯(土豪)が力を持ち、それらの諸侯が集まって作った国である。もともとスイスは資源もなく、工業力もない農業国であった。国土の70%は山脈が占め、気候条件の厳しい国だから、牧畜が盛んなくらいで貧しい国だった。山が多いから高地に種を蒔いて牛を放牧しており、予想もしない2000mや3000mの高い所にまで牛を放牧している。昔は熊が出没して牛が殺されることもあったらしいが、観光客が増えるとともに熊を根絶やしにしたというから凄まじい。3000m級の高い山でも車椅子で行けるよう徹底した施設を整備し、標高3970mのアイガーにトンネルを掘り、標高3571mのスフィンクス展望台まで電車を走らせるという発想は想像を絶する。1789年にフランス革命が勃発すると、傭兵としてスイスの若者が出稼ぎに出て行ったというくらい貧乏な国だったから、自然の山岳風景を見てもらうために観光に力を入れ観光客のおもてなしに徹している。今は時計を初め精密機械、金融で豊かな国になっている。日本で有名なネスカフェを製造しているネスレはスイスが本社であり、世界最大の企業である。過去の建国当時の状況から、どこの国とも等間隔の外交を徹底させ永世中立国となった。2002年には国際連合に加入したが、今でもEUに加盟せず、EUと2国間の同盟を結んでいるに過ぎない。
永世中立というのも生半可ではない。各家庭には機関銃を装備させ、若い時には徴兵制で軍隊の経験を積ませて、その後30歳、40歳の節目にも何ケ月かの訓練を受けさせる等徹底している。田舎ののどかな風景の真っ直ぐな道路の地下には戦闘機が格納しており、いざという時には即座に戦闘機が飛び立てるようになっているという。WHO(世界保健機構)やIOC(国際オリンピック委員会)、WTO(世界貿易機関)等22もの国際機関の本部がスイスに拠点を置いているが、インフラを整備し、家賃等は取らず、維持費は取るが職員等の採用を促すことでもとを取っているというから、これも計算された戦略なのだ。小国だからこそこのような国の戦略が必要不可欠なのであろう。
歯科医院とて基本は変わらないと思う。歯科医師1~2人の小規模歯科医院だからこそ徹底した戦略思考が不可欠なのではないか。規模が大きくなればなるほど患者との密接な信頼関係が築きにくい。そのようなスキマを徹底的に埋める関係作りが求められている。それを埋められるのは小規模の患者の少ない歯科医院である。一点集中主義といわれるが、漫然とお金をかけるのではなく、何か特徴のある方針を打ち出して、それに徹底したお金と人の能力をかけることが効率的であり、密接な関係作りにも役立つと思う。
(つづく)
〔タマヰニュース2009年 10月号より転載〕