2009年 9月号
歯科医院経営を考える(384)
~歯科医療の長期ビジョンを~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
今年の8月は衆議院議員選拳で一段と暑くなっている。各党ではマニフェストを作り支持者作りに余念がないが、マニフェストを見ただけでは、その党がどういう国を作り、どういう方向を向いているのかが全く読めない。長期の国づくりビジョンが抜け落ちているのが各党のマニフェストである。有権者には良いことずくめで、バラマキ政策を発表しているのが実態ではないか。国の借金である国債発行額がGDP(国内総生産)の約170%に及ぶ膨大な金額になっているという事実を直視すべきだ。オバマアメリカ大統領が金融危機に際して発行した膨大な国債発行額でも、まだ国内総生産の100%以内に収まっているという現実を見ても日本の借金の異常さが分かる。国の借金は若い世代への「つけ」だから、もっと深刻に考える必要があると思う。
日本経済新開の世論調査によれば、今回の選挙で全回答者の55%が「年金・医療」を重視し、60歳代では66%になるが、20歳代では37%にとどまり、彼らの最も関心のあるのは「景気対策」で49%になっているという。こうした調査は統計学の理論に基づいて科学的に実施されているのだろうが、大きな問題がある。2009年のデーターで言えば、55歳以上の人口は全人口の37%に相当するが、全有権者の中では45%を占めるという。一方20歳未満の人口は、全人口の18%を占めるが選挙権はない。こうした事実を踏まえて考えると、高齢者の意見が政策に反映され易いこと、政治家は有権者を意識するだろうから、若い層、特に未成年層に対する政策が無視ないしは手薄になる可能性が高いということだ。多額の借金を押し付けて、我が国の将来を担う子供や若者への思い切った投資を怠ればどのような結果を招くかを考えるべきであり、将来の保証は年金の多寡ではないことを知るべきだ。アメリカの人口学者ピーター・デーメニが「デーメニ投票法」を提案している。子供が2人いる家庭では、親に子供の人数分の票を与えるというものだ。2人の子供がいれば両親は2票ずつ投票できるようにするというのである。個々には問題もあるが、検討に値する提案だと思う。
今後医療問題は我が国の重要な政策課題になってくると思われるが、現在の歯科医療行政を見ていると、その場しのぎの法改正のつぎはぎで、歯科医院経営の長期展望の立てようがない。予防をどのように位置付けるのか、補綴治療をどのようにするのか、保険診療と自費診療をどのように区分し、どの程度国民に負担を強いるのか等々によって歯科医院の経営方針が大きく変わるからである。どちらの政党が政権を取るにせよ、医療の長期ビジョンを示してもらいたいと思う。
(つづく)
〔タマヰニュース2009年 9月号より転載〕