2008年 3月号
歯科医院経営を考える(366)
~患者の理解と納得~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
最近医療の問題が社会的な問題になっている。「救急車が何回もたらい回しされて、やっと受入病院にたどりついたが死亡してしまった」、「病院から30歳代、40歳代の中堅医師がいなくなっている」、「産婦人科医院の閉鎖が増えている」等々毎日のように記事が出るようになった。先日NHKの「かんさい特集」で救急医療を取上げていた。大阪市の救急搬送件数は昨年204,373件だったそうだ。淀川キリスト教病院は手厚い看護や充実した医療で有名な病院だが、その救急部門では受け付けた救急患者の70%は緊急の必要のない患者だったと言う。酔っ払って救急車で担ぎ込まれる人や、病院に着いた途端、ヒョコヒョコ歩いて病院に入ってくるおばあさん等が放映されており、ちょっとした病気でも救急車を呼んで駆け込んでくる。消防署の救急隊に所属している知り合いが嘆いていたのは、救急車をタクシー代わりに使う人が増えて本当に必要な救急患者の要求に応えられないことだという。コンビニに行く感覚で来院するからコンビニ受診というのだそうだが、この病院では以前は救急車の救急依頼を断るのが3%程度だったものが、最近は20%にもなっているという。二次医療圏の患者が増えて、溢れた患者が重症患者を診る三次医療圏の大病院に担ぎ込まれるようになったことが問題を複雑にしている。
病状に関係なく、ちょっとした病気でも近所の診療所が閉まっているからと救急病院へ駆け込んでくる患者が激増しているのだ。しかも昼と同じ医療の内容を要求してくるから、病院ではいろいろな科の先生が待機していなければならない。これが勤務医のオーバーワークを生み、働き盛りの中堅勤務医が退職に追い込まれているというのである。退職した勤務医の先生が新規開業をするケースが最近増えている。これに研修医制度ができて大学の医局に医師が不足して派遣医を引き上げていることが更に事態を悪化させているのである。更に国が進めている在宅医療の促進で、多くの患者が自宅で療養しているが、そうした人が何か異変があると、すぐ救急車を呼ぶという行動に出る事も問題になっている。
こう見ると患者の受診への意識を変える事が先ず重要だと思う。何よりもタクシー代わりに救急車を呼ぶという患者の行為を抑制する必要があるが、救急車を有料にしようという話も出ている。このまま何も手を打たないで放置すると医療の荒廃が進むばかりである。兵庫県の丹波市では患者の救急意識を変えるために、どのような症状が出たときにはどういう病気を疑う必要があるのか等の目安を冊子に作って配布しているというが、患者の理解と納得が鍵になるのではないか。
歯科医院経営においても今後鍵になるのは患者に理解してもらい、納得してもらうことである。昨今は患者に迎合してモミ手に近い対応をするところが増えてきているが、患者の言いなりになることは医療荒廃につながる。一定の医療水準を維持しようとすれば、院長の方針と供に医院のルールを詳しく、納得が得られるまで説明することが重要である。歯が痛くなったら予約もしないで来院して、待たせるとか、遅いと文句を言うような患者に迎合する必要はない。診ないということはできないが、最低の治療のみにとどめて引き取ってもらうという姿勢が重要である。ただし親切丁寧に説明するという前提がないと他の患者が理解してくれないから注意を要する。
(つづく)
〔タマヰニュース2008年3月号より転載〕