コラム

今月のコラム

2010年 12月号

歯科医院経営を考える(399)
~事業承継~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 知り合いの先生の息子が他の医院(インプラント等自費収入の多い医院)で勤務医を3年やって帰ってきた。ところが根管治療も完全にはできない。(そのような医院の場合、腕の未熟な勤務医に重要な仕事をさせることはない)しかも勤務態度が余り良くない。朝の朝礼には遅れてくる、症例研究会に出ても何も言わない、患者からは頼みもしない歯周検査をやると苦情が出る始末で、とうとうスタッフから文句が出てきた。院長の息子さんに対する姿勢が甘すぎるのではないかと言うのである。スタッフから文句が出てきて院長が複雑な思いになった。直接息子に文句を言うなら分かるが、何故院長である自分に向って批判してくるのか?というわけである。院長がスタッフの意見や考えを取り入れて運営していくと、スタッフのやる気が出てきて、スタッフの自主性や仕事への意識が高くなってくる。スタッフの仕事に対する参画度が高まってくる。つまり「私達の歯科医院」という意識が芽生えてくる。それは極めて大切なことで、いちいち院長が「ああせいこうせい」と言わなくてもある程度院長の考えに従って自発的に動けるようになってきているのだ。だからそのような兆候は歓迎すべき現象なのである。ところが息子のこのような態度、行動を院長が統制できないとスタッフは失望し、やる気をなくしてしまう。自分の息子であっても医院のルールに従わず、勝手気ままな行動を取る人間を放置するのか、と考えているからである。院長の息子という特別な存在ではなく、1勤務医という見方をしているから苦情が出てくるのである。このような歯科医院の場合、院長の息子に対する姿勢(寛容性、指導力、コミュニケーションカ)が問われるし、後を引き継ぐ息子の方には技術の習得だけでなく、働く意欲や自主性の高いスタッフのモチベーションをどのように維持し管理していくかの自覚がないと現状の維持すら出来なくなる。院長の技術面や経営業績面の実績がよければよいほど、後を継ぐ息子や娘の力量不足が目立ってスムーズな承継が難しいのである。それだけ後継者の高い技術力や高い経営管理能力が問われるのだ。だから院長はそれを踏まえてより厳しい姿勢で後継者の育成をするべきで、業績や技術力の高い医院ほど妥協することなく厳しく育てるべきなのだ。大阪商人は娘に婿養子を迎えて、その婿養子を跡継ぎにしたというのはそのような事情が背景にあるのだと思う。先の院長のケースでは、そこに母親が入り、院長が厳しすぎるとくちばしをいれるからややこしくなる。このような場合、先ずスムーズに承継できない。何とか引き継いでも業績はガタ落ちにならざるをえない。父親の技術やスタッフ管理の技術を盗み取るぐらいの貪欲さが求められるのだが、それが出来ない場合は、親と全く異なる治療技術や管理技術を身に付けることである。しかしそれを今度は親の院長が許容できるかどうかが問われる。事業承継とは経営権の奪い合いの側面を持っている。それを双方が自覚してお互いの思いを尊重しつつ譲渡していくというのは簡単なことではないのである

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2010年12月号より転載〕