2012年 4月号
歯科医院経営を考える(415)
~治療の会話術~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
筆者もとうとう義歯のお世話になることになった。知り合いの先生に右の下顎、第1大臼歯と第2大臼歯に義歯を入れてもらった。インプラントという方法もあったが、いろいろ経験してみたいと思い義歯にした。想像していた以上に不便なもので咬み辛いものだ。知り合いの先生は、デジタルレントゲンで撮影後すぐに画面に口腔内の映像を映し出して見せてくれるから、理解し易く分かり易い。先生の診断を聞いていて成程とよく理解できるし、自分の口腔内の現状はよく分かったのだが、ただ治療方法としてどのような方法があるのか、それぞれどのような問題や特性があるのかの説明がなく、ただ義歯にしましょうか、インプラントにしましょうかというだけなのである。
筆者の理解度から省略したのかもしれないが、せっかくのデジタルレントゲンの映像が生かされていないと思う。それぞれの方法の特徴や欠点等を整理して説明し、保険ではどのような問題があり、インプラントの場合はどうなのか等説明をして欲しいと思う。ただその場合、先生の考えや方針等をはっきり話しておいた上で、いくつかの治療方法を提示して、どうしますか?と尋ねてもらえば、患者は自分の思いや考えを述べる機会が持てるが、「義歯か、インプラントか?」と言われ「義歯で」と答えてしまうと先生自身も患者がどのような理由で「義歯」と答えているかが分からない。患者に質問をすることで患者の思いや心配事が分かってくると思う。ただ患者によっては、先生を前にして自由に自分の考えを述べることができず、圧迫感を感じてしまう患者もいる。自費を勧められて断りきれないのではないかと心配する患者もいる。そういう場合は患者に自由に話をさせる雰囲気が不可欠になる。それには会話術というものが必要で、医療の現場では患者の心理をくみ取って話しやすい雰囲気で会話する技術が治療技術と同程度に重要不可欠だと思う。一通りの説明をした上で、「急いで結論を出す必要はないのですよ」と安心させ、「スタッフと相談してください」とスタッフに相談して決めてもらう方法があってもよいのではないか。保険診療では1レセプト単価が徐々に低下してきており(約10年間に20%減少している)残念ながらゆっくり患者と会話する時間的余裕がなくなりつつある。
だからといって会話しないで治療しているとトラブルのもとになる。先ず患者の主訴を聞くところから始まるが、よく耳を傾けて聞き取ることと、適宜質問することだと思う。「今緊張されていますか」「痛みに対して弱い方ですか」等々患者がどう思っているか直接質問すれば患者も安心するし、患者が何を考えているかがよく分かる。こうした質問は患者に気遣っていることへのシグナルになるから患者も安心できるのである。
(つづく)
〔タマヰニュース2012年 4月号より転載〕