コラム

今月のコラム

2009年 1月号

歯科医院経営を考える(376)
~ノンバーバル・コミュニケーション~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 新年明けましておめでとうございます。何時もご愛読ありがとうございます。今年もよろしくお願い申しあげます。

 

 最近、大きい病院ではすべて患者に対して「○○様」と呼んでいるが、歯科医院でも、特に若い院長の歯科医院では、患者を「○○様」と呼ぶところが増えてきている。歯科医院もサービス業だから「○○様」と呼んで何ら問題はないのだが、少し違和感がある。大病院のように個人と個人との関係が希薄になる場合では、そのように呼称する方がいいのかもしれないが、個人の医院で何時も患者と顔を合わせているような規模の歯科医院では、かえって逆によそよそしい雰囲気になるのではないか。筆者も昨年大きい病院に10日ほど入院した経験があるが、外来等では「稲岡様」でも、入院患者には「稲岡さん」と呼んでいる。それは日本の社会では「様」よりも「さん」の方がより親しみを感じ身近に感じるということではないか。長野県の某病院では「○○様」から「○○さん」に変えたところがある。それは患者へのアンケートの結果、「気持ちが悪い」「商売のような気がする」「親しみがもてない」等々の結果からの結論であったそうである。地方に行けば行くほどそのように感じる人が多いということだろう。

 

 

 人間の脳は左脳と右脳とではその働きが異なると言われる。(科学的な裏づけがなされた訳ではないが通説として)左脳は言語認識、論理思考、顕在意識、論理的な思考の働きを、右脳はイメージ記憶、芸術性、創造性、感覚的な直感、ひらめき、潜在意識等の働きがあると言われる。それに伴ってコミュニケーションの方法についても「バーバルコミュニケーション」(言語を介した会話)と「ノンバーバルコミュニケーション」(言葉以外による会話)があるとされている。どれだけ丁寧な言葉を使っていても、「下を向いて話す」とか「相手を見ずに話す」「表情が暗い」「低い声で話す」「声の調子が強い」では本当に親密な関係はできない。先ず言葉よりも態度が重要な意味を持つのだ。つまりノンバーバルなコミュニケーションが重要になるということである。特に注意したいのは、耳で聞く言語よりも、目で見る視覚の方がはるかに早いということだ。だから「○○様」という言葉を使っていても態度が荒っぽい行動であるとか、視線が患者に向いていないということであれば、なにか「胡散臭いもの」(患者を人間ではなく収入源としてみている)を直感で感じ取ってしまうのである。「○○様」という言葉を使うのであれば、徹底した患者指向の経営理念がスタッフに浸透している必要がある。ここまで患者のことを考えてくれているのか!と患者が認めてくれるぐらいの経営理念、経営姿勢、患者応対でなければならないと思う。患者の話す言葉や態度から、患者の思いや感情を推し量ることができるレベルの応対ができて初めて「○○様」という言葉が生きてくると思う。

 

 

 今後さらに厳しい経営環境が続くと思うが、歯科医院にとっても真に患者を大切に、患者の心を捉えた経営かどうかが問われてくると思う。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2009年01月号より転載〕