コラム

今月のコラム

2012年 1月号

歯科医院経営を考える(412)
~患者との絆づくりを~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 昨年3月には東日本大震災とそれに伴う原発事故によって多くの人命が失われた。親や兄弟をなくされた人や生き残っても離れ離れの生活を強いられる人もいる。「2011年の漢字」は「絆」だったが、家族や夫婦や隣人といった人と人の関係が見直されるようになってきており「絆」が選ばれたというのも頷ける。

 

広辞苑によれば「絆」とは、①「馬、犬、鷹等動物を繋ぎ止める綱」②「断つに忍びない恩愛」③「自由を束縛するもの」とある。日本は高度経済成長時代に働く場が広がるとともに家族や親戚、隣人の関係が希薄になっていった。隣の人の顔もしらないという人もいる。当時「絆」は③の「自由を束縛するものだ」という解釈が主流だったのだろう。それが環境の変化とともに、②へと解釈が変わりつつあるということだ。今後は高齢化とともに人と人の関係や情愛が重視され大切にされる社会に変わっていくのではないか。そもそも医科でも歯科でも、医療は人と人の関係の上に信頼を基として成り立っている。患者から見て余ほど技術的に劣るのでなければ、親しく優しい信頼のおける先生に診てもらいたいと思うのは人情というものだ。患者の死亡や病気で来院しなくなることはあっても、元気なのに来院しなくなるというのは転院を意味することだ。従って基本的に医療経営においては、競争という概念はないと思う。去っていくのは何か満たされないものがあるからだ。

 

新規の患者を獲得するためには、デザインや診療所の塗り替え、設備の充実等は必要で、その意味では競争だが、一旦来院した患者をしっかり繋ぎ止める関係づくり、「絆」作りをすれば、簡単に転院することはない。競争があるとすれば技術である。明らかに技術による格差を認識し、それが自己の許容限度を超えた時に患者は去っていく。だから院長自らが技術的に難しい症例の場合は他の医院に紹介するべきである。無理に手掛けないことである。それが患者との信頼関係推持の基になっている。すべてを自分の手で治療することが信頼を増すことにならない。要はその患者の立場、患者の意思を中心に考えるべきで、その患者の病状と期待、感情、恐れと院長自身の技術的な自信を考慮して決定するべきである。また自己の技術に自信がある場合は、患者に自費診療を勧めるべきだが、患者が押し付けられたと考えないか気にする先生が多い。しかし患者の歯への思いをくみ取って、このような治療方法もあるということはしっかり話しておく必要がある。その上で患者の意思を尊重すればよいことで、患者の心中を慮って自費診療の説明を省いてしまう先生も結構多い。押し付けこならないよう十分な配慮は必要だが、患者にプラスになる情報はキチンと話すべきである。また一人一人の患者の情報は文章化してスタッフ間で共有するべきである。カルテも患者毎ではなく、家族単位にすべきだ。患者との絆は院長、スタッフと患者との間でガッチリ構築していくべきである。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2012年 1月号より転載〕