2010年 9月号
歯科医院経営を考える(396)
~真剣勝負~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
同郷の友人の中で刀に詳しい人がいて、その人の案内で、奈良県東吉野で刀鍛冶をしている河内国平刀匠の鍛冶の現場を見せてもらった。炸裂する火花、腹の底に響く鍛冶音等想像を絶する現場であった。今年は殊のほか暑い中、閉め切った薄暗い部屋の中で、青白い松炭の火を焚きながらの作業で汗びっしょりの現場であった。砂鉄を「たたら式製鋼法」で低温還元(1300度~1500度)して作った鋼のうち、含有炭素量が約0.3%~0.5%ぐらいのものが刀剣を作る玉鋼(たまはがね)である。(「刀匠が教える日本刀の魅力」著者河内国平他著、里文出版刊)この玉鋼を薄く平らに打ち伸ばして小割りにし硬い皮鉄(かわがね)用、柔らかい心鉄(しんがね)用に分け、心鉄は刀身の中心に、皮鉄は刀身の外側に入れて作られるが、それぞれ10回程度火に入れ打ち付けて鍛錬して最後に重ねる。だから切れ味鋭く、且つ折れない刀ができる。
刀から出たことばに「鍔(つば)迫り合い」「目貫通り」「鎬(しのぎ)を削る」「反りが合わない」「元の鞘(さや)におさまる」などがあるが、面白いのは「折り紙つき」という言葉で、室町時代から刀剣の鑑定は本阿弥家が発行しており、奉書の紙を二つ折りにした折り紙の上に刀剣を乗せ作者の真否、代金の評価を行い、金子4枚(1枚は10両大判1枚)以上を評価する高額の刀剣に発行し、それ以下の刀剣には「下げ札」と呼んで幅の狭い断ち切りにした紙に鑑定を書き裏に印を押して発行したという。それが人物評価に使われ、優秀な人を「折り紙つき」といい、良からぬ人を「札付き」というようになったという。こうした河内国平親方の話を聞いていて、刀が日本文化として、我々の生活の中に根付いていることを実感せざるを得ない。
今や刀は武器でもあると同時に美術品でもある。従って美術品としての刀には登録証が存在し、その刀を購入した場合は名義を変更するだけでよいが、登録証がない場合は、武器となり速やかに警察に届け出なければならない。(銃刀法)刀の形をしていても古来の製法で作られた刀剣でなければ登録できないという。河内国平親方の話では、刀は1振り(1本と言わずに1振りもしくは1腰という)として同じものはないという。1振り1振り個性を持って生み出されているということだ。鍛冶の現場での光景を思い出すと、それは生みの苦しさというか、「親方と鉄とが取っ組み合って文字通り火花をちらし、鎬を削っている」という印象であった。人の組織も、お互いに真剣勝負で渡り合うからこそ切磋琢磨できるし、成長もするのではないか。そうした過程を得ないと真の関係が出来ないように思う。
(つづく)
〔タマヰニュース2010年 9月号より転載〕