コラム

今月のコラム

2008年 11月号

歯科医院経営を考える(374)
~戦略なき経営~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 政治は勿論、軍事や経済に関するアメリカの動きを見ていると、実に戦略的な行動をしていると思う。その国家戦略は群を抜いている。先日放映されたNHKスペシャル「世界同時食糧危機」はその一面を描いていた。戦後日本に援助物資としてトウモロコシとブタを送ることで養豚業を普及させ、有り余っていたトウモロコシの輸出実績を着実に上げていったという。そうして今、中国に対して同じように牛肉の消費を促進して生活習慣を変えさせ、穀物の消費を高めるとともに、バイオ燃料への転用を義務付けることでトウモロコシの価格が跳ね上がっている。食糧を戦略物資として位置づけ実に巧妙にコントロールしている。それに引き換え日本の食糧安全保障はまったく成り行きまかせの無為無策だ。農林水産省の推計では、カロリーベースの自給率(「国民1人1日国内生産カロリー」を「国民1人1日供給カロリー」で割った比率)で、日本は40%、イギリスが70%(過去に同国は30%だったものを国策で70%に引き上げた)ドイツ84%、フランス122%、イタリア62%、アメリカ128%、オーストラリア237%、カナダ145%である。食糧の安全保障という視点で国内の農業政策を根本的に見直すべきだ。世界の食肉純輸入国の合計の内、日本が21%、ロシアが11%、中国が9%、イタリア9%、ドイツ4%であり、穀物の場合で、日本は13%、メキシコが6%、韓国5%、ロシア3%である。食糧の輸出禁止や価格の高騰が起こればたちまち国民は干上がってしまう。農水省の統計によれば食事の食べ残しは、食堂、レストランが3.1%、結婚披露宴が15.2%、宿泊施設が13%だそうである。平気で食べ残して捨ててしまうという生活態度も問題だ。民放の大食い競争等という低劣なTV番組の映像は、金にまかせて飽食している国民を象徴している映像に見える。食育という言葉が最近よく使われるようになったが、国は正しい食事のあり方や、食に対する意識に対して国民を啓蒙し教育をすると共に、食糧安全保障戦略を確立すべきではないかと思う。

 

 目を歯科医院経営に転じても同じように見える。昨今歯科医院の現場を歩いてみて思うのは、行き当たりばったりの経営だということである。昔生存したマンモスが滅びたのは、環境に適合できなかったからだというのが定説になっているように、歯科医院経営も大きいから強いのではない。その時その時の環境の変化に適合できているかが問題なのである。どう経営環境の変化に適合するかが戦略である。患者層も代わり、患者の意識も変わり、競争環境も変わってきている。そして何よりもスタッフの意識が大きく変わってきている。来院してくれている患者の多くが期待していること、治療技術、人的サービス、設備機械について知るために、積極的に患者に働きかけているかどうか。徹底した高い技術を望んでいるのか、それよりも痛くない治療を望んでいるのか、少々お金がかかっても、キチンと治療してもらいたいと考えているのか、治療内容には余り関心がなく早く治療してもらいたいと考えているのか等、こちらの推量ではなく、実際に患者がどちらを希望しているのか、こちらがアクションを起こさない限り分からない。患者に働きかけて、その反応を注意深く見るという姿勢から患者が少しずつ見えてくる。そのような患者の目線から見て敏感に反応することなのである。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2008年11月号より転載〕