2008年 6月号
歯科医院経営を考える(369)
~物価上昇への対応~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
アメリカのサブプライムローン(信用度の低い人向けの住宅ローン)問題が世界の金融経済に大きな打撃を与えている。このサブプライムローンの問題点として指摘されているのは、ローンを債権化し、証券化(債務担保証券)したことにある。ローンを債権化するだけなら「住宅ローン担保証券」として比較的明確に信用度が確定できるが、さらにそれらが「債務担保証券」という形に再証券化され、格付け機関によって高格付けされて、投資家やファンド、金融機関に販売され取引されたことである。腐った肉が細切れにされて、いろんな食品に混入されてしまったという状況であり、どこに、どのくらいの焦げ付きになっているかが分からないという点にある。単純に言ってしまえば、例えば、ある住宅資金融資会社が、住宅ローンとして個人に3,000万円を貸し出し、その3,000万円を10万円の証券にして300枚に分割し、更に他の金融商品とセットにして再証券化するという高度な金融商品テクニックによって、世界の金融機関に拡販されたことである。IMF(国際通貨基金)の予測によれば、世界の金融機関の損失が将来的には9,450億ドル(約96兆円)になるという。金融工学と言われ、高度な金融テクニックが発達して、「お金が商品である金融業こそ最も効率のよいビジネス」という風潮が広まり、アメリカは製造業が年々減少し続けて実態経済から益々離れつつあると言われる。
アメリカやヨーロッパの先進国の年金資金やファンドの金融資本が、金融商品を生み出し、さらに投資先を求め、利潤を求めて1日で30兆円という資金が世界を駆け巡っていると言われる。一方ではその資金が、原油や穀物等の商品に向いて物価上昇の元凶になっており、徐々に日本経済にインフレの影響を及ぼしつつある。原油やパラジューム等の値上がりがレジン等の歯科材料の価格上昇に影響を与え、食料品の値上げが生計費の上昇に影響を与えつつある。
こうした環境の変化を考えると、今後の歯科医院経営における経費の見直しが不可欠になってくる。物価上昇分の点数が引き上げられるのは、せいぜい数年後であり、かなりのタイムラグがあるから、前倒しで経費節減対策を最重要課題にするべきである。
例えば、一般の工場で使う電気は200ボルトだが、器械を動かす場合は、必ずしも200ボルトの電圧は必要ないと言われる。電圧が高ければそれだけ電流が大きくなる。そこで多くの工場では器械が動く最低の電圧を決め、その電圧まで下げて節電するという方法を採用して大きく節電している。歯科医院も200ボルトの電圧を使うが、こうした節約も考慮の余地があるのではないか。電気・水道・ガスや通信費、接待交際費、事務用品費、車両費等々節約余地はいくらでもあるが、こうした問題は、院長一人が頑張ってもどうにもならない。スタッフ全員の協力なくして達成は難しい。ある歯科医院では、前年の経費(水道光熱費、通信費、事務用品費、消耗品費のみ)に対して節約できた経費の何%かはスタッフに還元するという方法を取っている。半年毎に集計して、節約できた額の5%を賞与原資にしている。ただこの場合結果の数字だけを公表しても意味がない。毎月集計してどれだけ節約できているかを公表してスタッフの関心を高める必要がある。
(つづく)
〔タマヰニュース2008年6月号より転載〕