2012年 3月号
歯科医院経営を考える(414)
~自己反省と自己成長~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
法政大学教授の坂本光司先生が「日本でいちばん大切にしたい会社」というタイトルの本を出版し(あさ出版刊)、その中で五つの会社を紹介している。取り上げた理由は、好業績を挙げているだけでなく、中小企業の五つの言い訳(「景気や政策が悪い」「業種、業態が悪い」「規模が小さい」「ロケーションが悪い」「大企業、大型店が悪い」の五つである)をことごとく否定して、従業員およびその家族、あるいは下請企業や顧客を大切にしているからだという。大切にしたいと取り上げている会社の一つにダストレスチョークを製造している社員60名ほどの日本理化学工業株式会社がある。この会社の障害者雇用率は社員の七割にもなっているという。50年前のある日、近くの養護学枚の先生が訪ねてきて障害を持つ二人の少女の就職を依頼してきたが、それは無理ですと断り続けた。それなら最後にせめて一週間だけでも働く体験をさせてやってくださいと頼まれて業務体験をしてもらうことにした。そうしたらこの少女たちは、朝8時が始業時間だというのに毎日朝7時には玄関前に出勤してくる。休み時間も手を休めようとはせず、一心不乱に働いたという。会社で毎日働くよりも施設でゆっくりしていれば楽でよいのに、何故きつい仕事をしたがるのか?と社長が禅寺の和尚さんに聞いたら、幸福とは、①人に愛されること、②人に褒められること、③人の役に立つこと、④人に必要とされることであり、このうち②と③と④は施設では得られないと言われた。そうして今日で体験学習も終わりという日に、社員の代表が釆て、知的障害を持つ少女二人を、「私たちがカバーするからぜひ採用してあげてくれ」といい全社員のたっての願いだという。そうして今では社員の7割が障害者だという。多くの大企業では障害者の法定雇用率を達成しないで、納付金(罰金?)を収めているのが現状である。しかも日本理化学工業での商品開発は正常者と障害者の協力によって次々に生み出して、チョークでのシェアーは30%だという。人間にとって生きるということは、必要とされて働き、それによって自分で稼いで、自立することである。
ところで歯科医院での仕事は、上記の条件の③と④は自動的に満たしてくれる仕事である。しかしそれをスタッフ自身に気づかせ、意識させることが必要なのである。新人で入ってきたときには、患者に感謝され喜ばれることで、肌で感じていい仕事だと素直に感謝できるのだが、何年か経つと感度が鈍くなってくる。だから周期的に見直しを図る必要がある。それにはスタッフのミーティングで、いろいろな患者の感想や意見や行動を取り上げて検討するとともに、患者はどのように感じているか、どうしてあげることが患者の納得や安心につながるのか等、徹底して繰り返し検討することである。そうすることで患者との関係を深め、自己反省を深め、自己成長へとつながって①と②の実現につながるのである。
(つづく)
〔タマヰニュース2012年 3月号より転載〕