コラム

今月のコラム

2013年 11月号

歯科医院経営を考える(434)
~歯科医業の承継~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 歯科医院の事業承継は、院長の医業に対する理念、考え、方針の承継、患者の承継、歯科医療事業の承継、医療従事者の承継、医療器械器具設備の承継といった側面がある。親の診療所、患者、スタッフ、治療器具等々の事業資産を子供に引き継いで継続して歯科医院が維持されれば最高である。ところがこれが上手くいかない。人口密度の高い立地条件の下町で、親子(親64歳、息子35歳)で3年間一緒に診療してきたのに、突然息子が出て行ってしまい、1日45人の患者を診ることができず、急遽勤務医を募集して何とかしのいでいるという歯科医院がある。

 

歯科医院という医療事業の承継は親も子もともに歩み寄りの姿勢がないとなかなか難しい。特によく勉強され研究熱心で患者に受けの良い院長ほど承継が難しい。研究と熟練を積み重ねてきた親からみれば、口下手で簡単な治療にもたもたして時間ばかりかけている息子の治療につい口が出るというのも分からないわけではないが、自分と比較して息子が拙く見え、ついつい厳しい言い方になるからである。それほど厳しい言い方はしていないというが、院長に仕えた勤続20年、25年のベテランのスタッフが4~5人おり、彼女からみれば息子がどの程度の技術力があるかよく分かり、院長の姿勢につられてそれがつい態度に出てくるのである。それを肌で感じるから息子は面白くなくなり飛び出してしまったのだ。最近の新卒歯科医師の研修制度では治療の実力を上げる制度になっていないように思うが、研修医制度を終了したらできれば他の医院で3年程度の研修を積ませた方が良いと思う。それもできれば院長に近い治療方針の医院が望ましいが、その段階で子供がどのような方針や希望を持っているのかの意見をよく聞いておくべきだ。

 

上記の先生の場合、毎週のように研修会や講演会にでかけて勉強しておられるし、治療が上手と近隣でも評判になっている。少なくともそれが院長の生きがいややりがいになっており、その自信が息子を寄せ付けない雰囲気になっている。将来は息子に譲りたいと思っていても、現状では息子を育てるという心境にはなっていないのである。意外に子供と診療のことについてじっくり話をしたことがないという院長が結構多いが、一緒に診療を始めたらできれば親子で症例研究会を持つことを勧めたい。それも親が主導するのではなく、相互に意見や考えを話し合うというのが最高だと思う。症例検討会ではあくまで治療の理論になるが、実際に治療してみてどこが難しいのか、院長はどのような治療をしているのか、自分はどこが拙いのかが理解できれば自ら率先して技術習得に努力するものである。忘れてならないのは、子供の治療内容について良い点は必ず褒めることである。母親がいれば母親の役割も重要で、院長や子供の直接言いにくい内容の話を間に入って伝える役割が極めて重要である。間違っても子供の方に肩入れして、父親である院長に食って掛かる等という態度をとると家族が崩壊する。「お父さんは治療について文句を言っているけど、早く1人前になって欲しいのよ」くらいしておくべきである。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2013年11月号より転載〕