コラム

今月のコラム

2009年 3月号

歯科医院経営を考える(378)
~治療技術水準~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 名古屋に住む筆者の義弟が、昨年の6月から歯が痛いと、近くで最近開業した綺麗な診療所で、若い先生の医院に半年ほど通院したがよくならない。歯石を取ったり歯を消毒したりしたそうだが、一向によくならない。そこで歯科医院を変えたところ、歯に異常はないから、神経内科に行って見てもらうよう勧められた。そこで神経内科でCT写真を撮ってもらったところ、聴覚神経が骨にくっ付いていて、それが神経に触り痛みを発していることが分かり、入院して手術を受けて無事退院してきた。義弟の話では、清潔で綺麗な診療所であり、歯石を取りましょうとか、応対も優しく丁寧な説明で申し分ないと思ったと言う。しかし約半年にわたる通院はなんだったのかと言う。。

 

 最近はデザイナーを使った綺麗な診療所で、患者応対も洗練されていて「患者様」等と呼び、院長の応対も優しく親切であり申し分ないように見える。歯周・予防に力を入れ、衛生士による患者指導に力をいれる歯科医院は多い。しかし基本的な診断技術や治療技術に疑問符がつくというケースを時々見かける。歯周・予防も重要だとは思うが、基本的な診断、治療ができるという前提の話であって、最初から歯周・予防のみというのは有り得ないと思う。

 

 

 神戸大学大学院経営学研究科では、リハビリテーション型の医院での「患者満足」について患者やスタッフに対してインタビュー形式で調査をしたという。その結果、患者満足は次の三つの要素で決まるとしている。それは、①医療水準、治療技術、②施設の利便性、付帯するサービス、③コミュニケーション、接遇、おもてなし、の三つである。特に慢性期疾患を扱うリハビリ型施設のような場合、③「コミュニケーション、接遇、おもてなし」という部分が何よりも「患者満足度」に大きな影響を与えているという結果がでたという。①の「医療水準、治療技術」は患者が期待している最低限度が維持されない場合は、非常に大きいクレームや不満、更には訴訟の対象となり得ることも示されたとしており、一定水準の品質が保障されていることが「不満」を防ぐためには極めて重要であるとしている。(詳しくはデンタルダイヤモンド社「自費攻略-TCのいる歯科医院」の諸井先生執筆『量から質へと移行する歯科医療』を参照いただきたい)これらの調査結果は、歯科医院を対象にしたものではないが、現在の「歯周・予防」を診療の中心に据えている歯科医院の場合、リハビリテーション型医院と診療体質が似ているから、これは大いに参考になると思う。

 

 

 ただ歯周・予防を診療の中心においていない、補綴中心の歯科医院の場合はどうか。基本的には上記の三つの要素と変わらないと思うが、治療技術への患者の期待はより強くなるのではないか。特に口コミや評判によって患者が多く通院してくる歯科医院の場合は、患者が身を持って治療経験をするから、その治療水準をかなり引き上げていかないと評判を落とすことになる。不況になると患者の見る目がより厳しくなることを自覚する必要があると思う。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2009年03月号より転載〕