コラム

今月のコラム

2010年 6月号

歯科医院経営を考える(393)
~先を見据えることとニンビーの排除~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 EU(欧州連合)加盟国のギリシャが経済的苦境に陥り、EUと国際通貨基金(IMF)から2兆3000億円の緊急融資を受けることで合意されたという。しかし事態はこれだけで終わりそうにはない。同じ問題を抱えているポルトガル、イタリア、スペインにも波及して欧州全体の信用不安が起きている。EU各国のソブリンリスク(それぞれの国で発行されている国債が償還されないのではないかというリスク)のためにEU全体で93兆円の資金を拠出するというが、一時的な信用不安を抑える程度に過ぎないという見方もある。ギリシャはせいぜい神奈川県程度の大きさの国だが、脱税天国で、ギリシャ経済の4分の1がヤミ経済といわれる。2009年に150人の医師に関する調査をした資料があり、年間所得が3万ユーロ(273万円)という医師が約半分を占めている。そういう医師の多くが車は勿論ヨットも所有しており、優雅な生活をしていると言われている。1万ユーロ(91万円)の所得しかないと回答している医師が30人もいたという。単純な比較はできないとしてもヤミ経済が4分の1というのは凄まじい。過去に、失業者に仕事を与えるという名目で多数の人を公務員として採用したから人口の5人に1人が公務員と言われており財政が破綻寸前という状況にある。EUは政治的に結びついた組織ではあるが、経済的にはそれぞれの国で独立しているので、一旦経済的な不安が生じるとなかなか治まらないという問題がある。

 

 しかしギリシャの問題は日本にとっても他人事ではない。単純に比較してもGDP(国内総生産)に対する借金額の比率は、ギリシャの125%に対して、日本は181%だというから比率だけを見ると更に日本は深刻な状況にある。日本の国債(借金)は国民や政府機関が所有しているから大丈夫だという声もあるが、国の政権が国民に大盤振る舞いをした結果の付けは最後に国民に戻ってくることを銘記しておくべきだ。と同時に沖縄の普天間基地に象徴されるようにNIMBY(Not In My Back Yard、「ゴミ処理場は他所に設置するのはよいが、自分の裏庭に設置するのは絶対に反対」という利己主義)の考えを反省してみる必要がある。過去の高速道路やダムの建設等の巨額な公共投資を、あれもこれもと地域エゴをむき出しにして要求してきた結果が、今の事態を招いている。10年、20年先を見据えて、今何をしなければならないかを考えるべきである。

 

 歯科医院経営とて先を見据えることが肝心である。高齢社会に突入して高齢者が蓄えを引き出したときに国債が償還できるのか、国の財政は大丈夫か、歯科保険医療費は確保できるのか、等々目をそらさずに直視して、患者の健康のために今何をすべきかを考えておくべきではないか。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2010年 6月号より転載〕