2008年 4月号
歯科医院経営を考える(367)
~クレーマー~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
今年の1月26日号の経済雑誌、週刊ダイヤモンドが「恐怖のクレーマー」と題して特集を組んでいる。「息子は自己紹介が苦手だから、自己紹介をさせるなら、始業式には息子を出席させない」という親とか、宇治市ではマンホールのふたに「汚水」「雨水」と書いたのではイメージが悪いと、「おすい」「うすい」と書いたら、「臼井」という人が、「孫がいつも名前を踏まれてからかわれているから市内全部のマンホールから『うすい』を消せ」とクレームをつけてきたという。その扱いに市役所がモタモタしたものだから、臼井氏の周辺のマンホールのふたを替える羽目になり、さらに市内のマンホールのふたの「うすい」を塗料等で消して回り、億のカネがかかったという。最近は大企業でも一つ対応を誤るととんでもない問題に発展しかねず、後々で多大な損失を蒙るから非常に慎重に扱っている。有名なのは「東芝のクレーマー」事件(1999年)である。ビデオデッキを購入したユーザーのA氏から、「東芝のS-VHSビデオデッキ」で、他社製のビデオデッキで録画したテープをかけたところ横線が入り見難いので修理を依頼してきた。このユーザーA氏は、以前から何回かクレームをつけて製品を交換させていたという実績を持つクレーマーだったらしい。製品の初期不良なら販売店で製品交換してほしい、といっていたという。ところが東芝は、技術者が出向いて本人の許可を得ずに修理してしまった。そうしたら「原因を知らされてもらえないまま、無断で修理した」とクレームをつけてきた。その後何回かのやりとりがあったらしいが、東芝の対応も悪かった。最後は「消費者の相談窓口」から総会屋等を相手にしている「渉外管理室」へ回され、その担当者が「お宅さんみたいのはね、お客さんじゃないんですよ、もう!クレーマ一っちゅうの!」等と暴言を吐きそれを録音されてインターネットのウェブサイトで流されたのである。そうしたら1000万件の人がそのサイトにアクセスして大問題になり、各地で東芝製品の不買運動が起こり、見過ごせなくなった東芝は副社長が出てきて本人に会い謝罪するという結果になった事件であった。
医療界では正当は理由もなく激しいクレームをつけて来る人を「モンスターペイシェント」といっているが、こうした人の増えることが医療崩壊を招く原因の一つになっている。「あんたが出した健康診断書のせいで、就職の内定が取消された」といって怒鳴り込んできた若者とか、「失敗したら許しませんよ」と凄む患者とか、「待たされたくないから」という理由だけで子供を夜間緊急外来に連れて来る母親とか、医療の現場ではこうした患者の応対に振り回される時がある。確かにクレームをつけて来る患者が増えてきていることは事実ではあるが、しかしまだまだ少数である。慎重にならなければいけないのは、クレーマーと一般の患者の区分をしっかりつけることである。こちらの初期動作が悪いためにクレーマーにしている場合が多いし、むやみに金銭で解決しようという姿勢が後々のクレーマーを作っている場合もある。クレーム対応アドバイザーの関根眞一氏は、「謝罪は本心から申し訳ないと思ってこそ相手に通じる」といっている。入れた前装冠が取れたといって来院してくる患者もいる。その時にその患者がどういう思いをしたか、というところまで聞いているだろうか。友達と楽しく食事をしているときにポロっと取れて恥ずかしい思いをしたというところまで聴いて初めて、「恥ずかしい思いをしていただいたのですね」と受けて初めて納得できるのではないか。
(つづく)
〔タマヰニュース2008年4月号より転載〕