2008年 9月号
歯科医院経営を考える(372)
~ホンネとタテマエ~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
最近はスタッフの労務関係の相談が多くなってきた。「肩をたたいて激励したらセクハラ問題で訴えられた」「退職直前の有給休暇を請求してきた」「有給休暇をとった者の皆勤手当をカットしたら労働基準監督署に訴えられた」「午前の診療が延びて昼休みに食い込んだ時間の残業手当を請求された」等々、もはや過去の常識や習慣が通用しなくなった。
先日も東京近郊のある市で開業している先生から相談の電話があった。経歴4年の衛生士がお産のために退職することになったが、「産休」を欲しいという。その歯科医院はドクターが院長を入れて3人。衛生士は4人、受付2人、助手が2人の医院だが、いままで産休を申請した人がいなかったという。だから院長は退職するものだと思っていた。その衛生士は、日頃から権利ばかりを主張して自己責任を果たさないということで仲間から嫌われており、他のスタッフも当然退職するものと思っていたという。その歯科医院では「結婚して子供ができたら退職する」という暗黙の了解ができていたのだが、その衛生士が「産休」を請求してきたので、止むを得ず産前6週間の産休を与えざるを得なくなった。ところがそれをきっかけにして他の衛生士や助手が次々と有給休暇の要求や残業手当の請求をしてきたのである。嫌われ者の希望が通るなら、我々の要求も通してくれという。労務問題に人間関係がからんで複雑な様相になっているのである。
労働基準法は「労働者を守る法律」だということ、そうして雇用者は、それを前提に雇用しているという事実を再認識しておく必要がある。従って「規模が小さいから」、「従業員が少ないから」、「医療だから」というのは何の理由にもならないのである。
院長の「身内意識」や「家族意識」の思いが、スタッフの胸にも浸透しておれば、少々労基法違反があっても何ら問題にならないが、そのような思いを感じない、または感じようとしないスタッフ(最近はそのようなスタッフが増えつつある)がいるとか、院長の手前勝手なご都合主義が優先していると問題が表面化する。有給休暇は採用して6箇月間勤務し、そのうち80%以上の出勤率であれば6日、その後1年経過毎に1日増え、3年目か2日ずつ増やして与えなければならないとされている。個人事業の場合は、資金や人員の面で余裕がない。しかし人員が少ない分融通が利く。だから基本的には、年々労働条件を良くする方向への努力をすると共に、スタッフの期待に応える姿勢を示すべきである。
例えば、全員が3ケ月毎の希望の日に1日の有給休暇が取れるようローテーションを組みなおしてスタッフから歓迎されている医院がある。労基法の規定通りの有給休暇日数ではないが、そのような姿勢をスタッフが評価しているから何ら問題が出てこないのである。現実は厳しい環境でなかなか規則とおりの待遇改善ができない。それがホンネではあるが、それに甘んじることなく、スタッフの待遇面改善に努力すること、ホンネをタテマエに近づける努力が重要なのである。今後は若いスタッフが増えてくればなおさらその姿勢が重要になるのである。
(つづく)
〔タマヰニュース2008年9月号より転載〕