コラム

今月のコラム

2011年 6月号

科医院経営を考える(405)
~親子診療の難しさ~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 ある歯科医院での話である。院長の32歳の息子が5年程度、他の歯科医院での勤務を終えて帰ってきた。院長も喜んで給与も40万円支払い副院長にして歯科医師二人の体制で診療が始まったのだが、院長の目から見てどうも息子の実力が未熟にみえてしょうがない。ついつい口をついて出てくることばが、批判的になり、小言になる。そうした雰囲気にスタッフも敏感に反応して、当初抱いていた副院長に対する尊敬の念や態度も微妙に変わってくる。それを肌で感じるから副院長の院長に対する態度が徐々に反抗的になる。些細なことでも理由をつけて勤務時間に遅れて出てくるとか、ちょっとしたミスでもスタッフを叱り飛ばす行動に出て、医院の雰囲気がギクシャクし出してくる。院長も口から出そうになる言葉を飲み込んでしまうからストレスがたまり、それがある時爆発して、息子と決定的な感情のもつれが生じてしまうのである。母親の立場も微妙で、どちらの立場に立つかによって雰囲気が大きく違ってくるが、この母親は歯科医師ではないから診療内容については何も言わないが、給与が少ないから可哀そうだとか、患者も喜んで息子の治療を受けているんだから文句を言うのがおかしいと言って、子供の側について院長を非難する。こうなると家庭では院長が孤立し、診療室では息子が孤立する。

 

 厳しい言い方だが、こうした状況に至った責任は院長にある。どちらにも影響を持つ立場にいるからである。特に院長が治療技術に自信を持っている場合が難しい。息子との差が大きいほど、息子の治療が認められなくなるからである。逆の場合は、息子が口を出さない限りは意外に旨くいく。院長として息子の治療技術が気に入らないのであれば、治療技術に関して息子と話し合い、教えるべきである。その場合の基本的な姿勢は「信」「認」「任」の考えに基づいて行う。ます「信」とは、息子の無限の可能性を信じ、それをどう引き出すかを考えるべきである。一人前の歯科医師として院長に信頼されて仕事が与えられていると感じたらその期待に答えようと努力をするものだからである。「認」は「息子の良いところを見て、心にとめる」ことである。息子は自分とは違う人間であり個性も違う。多様な持ち味があり長所がある。これを把握して伸ばすことが指導していく場合の重要なポイントである。息子の成長や進歩を見逃さないことが重要だ。治療の経過や後を見ると悪いところがついつい目につき気になるものである。「認める」に対して悪いところは「見咎める」ことになる。そういうマイナス面を指摘するとやる気がなくなる。たとえそれが真実であっても、いや真実であればこそダメージが大きくなる。「任」は任せることである。しかし「任せっぱなし」は問題である。そのためには「叱る」ことが重要になる。不安な気持ちで治療した結果が余り良くなく落ち着かない時に、叱ることで心理的にストレスがなくなるからである。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2011年 6月号より転載〕