コラム

今月のコラム

2018年 3月号

歯科医院経営を考える(486)
~事業承継の具体策~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 ある歯科医院の事業承継に関与することになった。診療所の立地条件は地方都市の郊外に位置し、中心街から7kmほど離れた地域で、小さいマンションや民家が密集している下町といったイメージの場所である。院長の経営方針は歯周予防をメインの診療方針に加え、子供中心の矯正に力を入れてきており、収入もDr2人で9,000万円近く挙げている。医院経営に成功しているといってもよい経営状況である。息子の方は10年近くの他の医院で勤務し4年近く前に帰ってきて父親の院長と一緒に診療を続けている。4年も一緒に診療を続けているのだから上手く交代できるように思うが、それがなかなか上手くいかない。事業承継が上手くいかない問題点の一つは一種の権力闘争の面があるからだと思う。それぞれの診療方針の違い、それに関連した設備投資への思い、診療の対象とする患者層の違い、スタッフに対する期待の違い等々悉く対立する状況にある。親が事業に成功していればいるほど、親自身も診療や経営に絶対的な自信を持っている。しかし息子の方はそういう親の診療や経営に不満を持ち批判的に見ている面がある。日頃の診療内容についてもキチンとルール通りに治療を進めていないとか、従業員に対して甘くなれ合いになっていると批判的に見ている面があり、反抗心からか院長の進めている矯正治療方法とは違う治療方法の矯正の勉強をしている。しかし父親の方にも問題がある。六十歳を超えているのに、老後資金を準備しておらず今後も働き続ける必要があること、また息子への不満をことあるごとに家族や出入りの業者や会計事務所に漏らし自分の考えが正しいことを公言したり、自分が育てた子飼いのスタッフを残しておきたいと思っていること等である。先ず共通の基盤として現在の院長の方針である歯周予防体制は少なくとも3年間は維持すること、従ってそれに従事する衛生士3人は継続して雇用することを確認したうえで、院長の退任とともに、一旦全員を解雇し退職金を支払う。その上で新しい院長が必要な職員を新規に採用するという方法を取る。ただスタッフが解雇を受け入れるかどうかや、期待しているスタッフが残ってくれるかどうかは未知数である。いずれにしても息子の理想とする診療と父親の現実の診療とのせめぎあいが当分続くことになるが、どこかに落としどころを探る日が続くことになると思う。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2018年 3月号より転載〕