2017年 5月号
歯科医院経営を考える(476)
~老後資金の準備~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
バーミングガムにあるアラバマ大学が、認知症ではなく一般的な認知を持つ老人の金融行動の低下について、ごく初期の段階の兆候を見分ける五つのポイントを明らかにしている。①お金の計算や支払いの実行に以前よりも時間がかかる。②お金に関する書類を見た時に重要事項に対する注意力が落ちる。③お金に関する日々の計算力が落ちる。④お金に関する概念への理解が落ちる。⑤投資に対するリスクの認識力が落ち、投資のリスクを過少に見積もるとか、リターンを過大に見積もる等の報告がされている。若い時なら事業経営や診療所改築等お金の問題が先に頭にきて、その資金計画に頭を悩ますという場合が多いが、20年、30年と歯科医院経営を維持し、順調に事業を続けて、それ相応の年齢になると明日も変わりなく続くと錯覚してしまうようである。ある歯科医院の院長先生の経営相談に乗っていて驚いたことがある。収入は約6,500万円、所得は1,300万円もあるのに、院長個人の老後資金が確保されていないということである。預金がほとんどないという状況なのである。しかも借入残が1,500万円ほど残っている。院長は勉強熱心だから毎週のようにセミナーや研修会に出かけており、それはそれで大切なこととは思うが、家計の維持や老後資金について全く関心がないし、先生の奥さんも散財に熱心で全く興味がないありさまである。確かに院長が健康であれば80歳でも働けるが、ずっと健康を維持できる確証はないのだから、少なくとも後顧の憂いをなくしておく準備はしておくべきである。子供がいるからと安心もできないし、自立した親を目指すべきであると思う。老後資金は夫婦で月額20万円ではかなり厳しい。60歳代と80歳代では異なるが、一般に夫婦で派手な生活をして散財しなければ月額30万円あれば少しゆとりのある生活ができると言われている。年間360万円である。70歳代ではまだ元気で過ごせるから夫婦で海外旅行でも、となれば当然老後資金の準備は不可欠である。現在65歳で70歳まで働き、71歳からは事業を止めて老後を送るとすれば90歳まで生きるとして20年である。そうすると360万円の20年、7,200万円が老後資金として必要となる。公的年金は全くあてにならないから、今からでも資金準備をしておくべきである。さらにそれに相続という問題を考えると老後資金が不可欠である。そのためにも長期の資金計画を今からでも立てておくべきである。
(つづく))
〔タマヰニュース2017年 5月号より転載〕