2015年11月号
歯科医院経営を考える(458)
~死亡消費税とハーボニー~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
わが国では急速な少子化が進み、膨らみ続ける高齢者医療費が問題となっている。それに対して高齢者自身が一部負担すべきであると主張しているのが東大教授で社会保障制度改革国民会議の民間議員である伊藤元重先生である。その方法として伊藤先生は「死亡消費税」という消費税を提唱している。それは死亡したときに課税するという理論で話題を呼んでいるものだ。
日本では急速な少子化が進む中で、高齢化が進み且つ高齢者の人口が増加している現状から、膨らみ続ける高齢者医療費は高齢者自身が一部を負担すべきだというのである。その場合高齢者がもらう年金に課税するのではなく、年金を消費に回してもらえば消費税として財政に貢献するが、使わずに溜め込む人には、その高齢者の保有資産に税をかけるという発想であり、しかも生前ではなく、死亡時に課税するというのである。死ぬと同時に遺産から消費税と同じ程度の比率で一律に税を徴収する。つまり死亡消費税である。これは膨れ上がる医療費でにっちもさっちもいかない我が国の財政負担を何とかしなければならないという危機感からでた苦肉の策なのだ。
一方で今年の7月に薬事審議会で承認され、8月の中医協でも保険治療薬として承認された「ハーボニー」(アメリカの制製薬会、ギリアド・サイエンシズ社が発売)というC型肝炎治療薬は1錠が80,171円だという。ただこの薬は臨床試験でC型肝炎ウイルスをほぼ100%死滅させるという。しかもC型肝炎の患者はこの薬を1日1錠、12週間にわたって飲み続ける必要があると言われているから1人の患者の薬代は673万円かかる。その「ハーボニー」が薬事審議会で承認され、しかも「患者の負担を減らすため」という理由で患者の窓口負担金を1月最大2万円とすることに決定したという。(雑誌「選択10月号」)現在日本にはC型肝炎患者は30万人以上いると言われているが、そのうちの7割を占める1型患者に効くとされているから約21万人であり、その人たちがこの薬を使えば1兆4千133億円になる。さらに日本にはC型肝炎ウイルスに感染している人が150万人に上るというから、「ハーボニー」の潜在的需要は7兆円近くになるのだという。「患者のため」という論理の前で、誰もが反論できず、次々に高額な医療費や薬剤が承認されていく今の現状をどう改革していくか。未承認の抗がん剤や先進医療で借金を背負い苦しむ人もいる中で、どのような公平の原則と医療費抑制を図るか真剣に考えるときが来ている。
(つづく))
〔タマヰニュース2015年11月号より転載〕