コラム

今月のコラム

2014年10月号

歯科医院経営を考える(445)
~メディカルトリートメントモデル~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 最近は歯科衛生士を何人か置いて患者にPMTCやSRPを実施し予防に力を入れている歯科医院は多い。しかしこうした歯科医院が実践している予防と酒田市の日吉医科診療所が実施しているメディカルトリートメントモデルとの中身の差が今一つ理解できないでいたが、ザ・クインテッセンスの2014年1月号(vol33)でアメリカ・タフツ大学に留学された新進気鋭の熊谷直大先生と築山鉄平先生の対談記事を読んで氷解した。

 

 メディカルトリートメントモデルというのは、同誌63頁の定義によれば、「医科領域と同様に診査・診断に基づくリスク評価を行い、治療法を提示し、治療結果のモニタリングを行い、その再発を予防、あるいは健康状態を維持するための個別のメインテナンス策を講ずる」というものである。ニ人の先生が目指しておられるのは、このメディカルトリートメントモデルであり、歯科衛生士、GP、専門医とのコラボレーションの必要性を強調されている。お二人の先生の対談は日本の歯科医療の本質に迫る基本的な問題点を指摘されていると思う。上記の記事の冒頭のプロローグで熊谷先生は、歯科医師数の増加やう蝕罹患率の低下に伴い、昨今のマスコミで取り上げる歯科医師がワーキングプアと呼ばれている現状から「国民は本当に健康な口腔を獲得したのか」と問い、厚労省の統計等からは依然として日本人の口腔環境は劣悪な状況にある事を憂いておられる。残念ながら日本の歯科の保険制度には「予防」という概念が抜け落ちているといわれる。その上保険の医療費が極めて低い値になっている。同誌の58頁には、アメリカ、スウェーデンとの治療費の比較図が掲載されているが、アメリカを100とすれば、スウェーデンは47.1%、日本に至っては8.0%だそうである。また100院余りの歯科医院の経理を見ている熊本市にある某税理士事務所の資料によれば、平成15年の1レセプト当たりの点数が1,507.3点、10年後の平成25年の同平均数は1,257.3点であり、16.5%も低下している。

 

医院経営を安定的に維持しようとすれば治療する患者数を増やすか、自費診療の比率を上げざるを得ない状況にある。患者も「歯医者へ歯が痛くなったら行くところ」という既成概念ができてしまっているから、衛生士がカリエスリスクを説明してもなかなか聞く耳を持たない。我が国の歯科保険医療制度がさらにそれを助長する制度になっており、その結果が現在の国民の口腔衛生環境になっている。せめてスウェーデンのように未成年者には無償で予防処置ができるようにすべきだと思う。毎日が削ったり詰めたりして治療を行う今の日本の歯科治療から、どうしたら患者の口腔衛生意識を高め、患者一人ひとりの体質や口腔環境からカリエスリスクを計算して提示することで、患者自らが口腔衛生の向上に関心を持ち、努力して歯を磨くようになるか。築山鉄平先生も述べられているが、医科と違い、歯科は通院回数が多く患者教育のチャンスは多い。だとすれば特に若い歯科医師の先生方決断と実践以外に解決策はないのではないか。若い先生方に期待したい。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2014年10月号より転載〕