2014年 6月号
歯科医院経営を考える(441)
~労働条件の見直しを~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
先日日本歯科医療管理学会関西支部の会議があり出席した。その折の議題の一つに歯科医院での労働基準法の遵法問題が話題になり、本当に労働基準法通り実施しているのは何院あるかが問題になった。例えば残業手当の計算式は、次のようになっている。 当月の残業代=当月の残業時間×{(基本給+手当)/(1か月の所定労働時間)}×1.25この計算式で、「当月の残業時間」というのは1週40時間の法内残業を超える時間(時間外労働)である。例えば1日の勤務時間が8時間で、始業時間は9時、終業時間が6時、昼休み時間が1時間とすれば、診療が始まる前の診療準備や掃除をする時間も時間外労働に含まれるし、終業規則には終業時間が午後6時となっているのに、実際の終業時刻が7時であれば、1時間の時間外労働(残業)となる。その場合の計算も30分未満であれば切り捨て、30分以上は1時間として計算することは認められているが、端数の時間(分)を切り捨てることは認められていない。また時間当たりの給与額を計算する上式{(基本給+手当)/(1か月の所定労働時間)}では、分子の「手当」には通勤手当や家族手当等は含まれないが、職務手当、衛生士手当、精勤手当等は含まれる。計算方法においても50円未満は切り捨て、50円以上は切り上げ100円にすることは認められているが、100円未満の端数は全て切り捨てという計算は認められていない等かなり厳格な計算を要求している。多いのは残業代の計算で、従業員各人の残業1時間当たりの定額を設定して、それに残業時間数をかけて算出する場合である。
雇用環境が好転してきて人手不足が広がっている一方、過労死や長時間労働が増えつつあり、国は今後雇用環境改善に向けて労働基準法の順守を強く求めてきている。実際にも労働基準監督署の調査が増えてきているように思う。ある歯科医院で技工士とのトラブルがあり解雇したら、労働基準監督署に訴えられ、過去の残業代1000万円近い金額を請求され裁判で争ったが敗訴して698万円支払ったケースが出てきている。特に最近退職者からの残業代請求が増えてきているといわれているから注意したい。
労働基準監督署には調査権や逮捕権まであり、侮ってはいけないと思う。一度調査を受けるとその後必ずチェックし、改善されているか監視されるから丁寧な対応が必要である。今までの慣行上なあなあでやってこられたことでも、今後徐々に規制が厳しくなるから見直してみることを勧めたい。先ず自医院のどこに問題があるかを見直してもらい、問題点があれば、それを3~5年の間に是正するよう計画を立ててもらうことだ。従業員が何も言っていないのに条件をよくすることに抵抗を感じる場合もあると思うが、その計画を従業員全員に公表することで自分にプレッシャーをかけて実施していただきたい。そうすることで従業員の院長に対する信頼や態度も変わるはずである。就業規則も10人未満の場合は作成義務がないが、ぜひ作って従業員に公開することを通じて医院の体質改善を図っていただきたい。
(つづく)
〔タマヰニュース2014年6月号より転載〕