コラム

今月のコラム

2014年 2月号

歯科医院経営を考える(437)
~医院の断捨離~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 

「断捨離」(だんしゃり、著者:やましたひでひこ、株式会社アスコム刊)という本がある。片付け術あるいは整理術とでもいえる内容の本である。誰でも感じることだが、部屋やものを整理するとなんとなくすっきりした気持ちになるのはなぜか?何故気持ちが良くなるのか?とある。実は家の中あるいは部屋の中と心の中は連動しているというのである。筆者の部屋も本や資料でごちゃごちゃである。部屋の中がとり散らかっているのは、心の中がとり散らかっているのと同じだと断じている。実に痛いところを突いていると思う。記憶力が低下していることもあるが、毎日ものを探すのに1時間程度費やすことがある。

 

「断捨離」はヨガの修行を日常に落とし込んだ「生き方」術だという。ヨガには「断行」「捨行」「離行」の行があり、欲望を絶ち、執着を捨て、あらゆることを手離して自在に生きるための行法哲学だという。「断捨離」はモノ、コト、ヒトに向き合うことだといい、部屋の状態を客観材料にして、自分を診断し、部屋が散らかっておれば、それを基にして自分の心の中もケアしていくという考えを説いている。「断捨離」は徹底的に見える世界を整えていく行動であり、その結果として人間関係や小さいころのトラウマ等見えない世界をも変えていく力を持っているというのである。

 

 先日小原啓子先生より「はいしゃさんの仕事・段取り術」(共著・医歯薬出版刊)を送っていただいたが、これは歯科医院の整理・整頓術であり、歯科医院での「断捨離」だと思う。作業のマニュアル化でもそうだが、単に規則を作り、文章化して書類として残すというものではない。何よりも院長の経営理念及び診療方針がスタッフの頭に刻み込まれていて、医院全員の行動として反映されないと意味がないものである。そのためには院長がスタッフと真正面から向き合い信頼関係をがっちり積み上げていないと形だけ真似をしても生きた段取りができないということだ。先ず前提として院長とスタッフ間の心理的距離を縮めておく必要がある。

 

日常の院長の行動からスタッフを信頼し、スタッフのために何が必要かを真剣に考えている院長があってこそスタッフも真剣に考えるものなのだ。院長の経営理念や診療方針がスタッフの行動規範として浸透するとともに、問題意識や能率向上への思いや患者への思いやり等の具体的な行動に反映されるものなのだ。患者が多く毎日バタバタ忙しく働いている医院ほど、効率の良い行動やマニュアル化の意味が大きいのだが、得てして実態はその道で、無駄な行動が多い。それは院長自身の「患者が多い」という自己満足にとどまり、患者の待ち時間の長さや、スタッフの負担や手間が軽視されているからである。医院全体のシステムとしての効率をどう高めていくかをスタッフとともに真剣に考える姿勢が問われているのである。上記の本には、時間に追われず働くためには「時間の看える化」を行うとある。意思統一やチームワーク、スタッフ間の協力関係が充実していなければ本当によいマニュアルはできないのである。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2014年2月号より転載〕