コラム

今月のコラム

2015年 3月号

歯科医院経営を考える(450)
~オバマケア~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 日本医師会の会長横倉義武先生が絶賛されている「沈みゆく大国アメリカ」(著者堤未果、集英社新書)が、日本の医療制度に警鐘を鳴らしている。アメリカには原則として公的保険はない。オバマケアと呼ばれる公的保険は出来たが、公的保険と呼べるものとはほど遠いものだと著者の堤さんは書いており、日本の医療は社会保障という位置づけだが、アメリカは「ビジネス」という位置づけだと指摘している。アメリカには低所得者向けの「メディケイド」と高齢者向けの「メディケア」という公的保険がある。「メディケイド」は最低所得層のための公的保険であり、「メディケア」は65歳以上の高齢者と障碍者・末期腎疾患患者のための公的保険である。どちらも日本の公的保険のように保険に収載されている病気なら全て1割~3割負担(高額療養費制度もあり高額の治療になれば負担率はさらに下がる)で済むという保険ではない。「メディケイド」の場合は、低所得者で資産がほとんどない人が対象で、メディケイドの資格要件は州毎に違っているという。非常に所得が低くても家や株等の資産がある場合は適用されないという厳しいものだ。

 

アメリカでは毎年150万人が自己破産していると言われているが、「医療破産」と言われるのはこうした制度が背景にあるのだろう。メディケアの場合、適切とみなされる医療サービス(保険適用サービス)にのみ支払われるという。高度な治療でも保険適用であれば、全て保険で治療ができるという制度にはなっていない。それぞれの保険適用サービスに対してメディケアは、許容限度額を設定している。許容限度額とは特定の医療サービス(治療)に対して医療提供者(医者)が患者に対して直接請求することができる最高額である。しかし保険適用サービスに対する許容限度額の全額がメディケアから支払われるわけではない。同書の36ページにはオバマケア保険で「くるぶし骨折」の医療費(3回通院)を受けた場合の支払例が掲載されている。(是非読んでみていただきたい。アメリカの医療制度の問題点が浮き彫りにされている)この治療に保険を使わないで治療した場合は640万円かかるそうだが、オバマケア保険で治療を受けた場合は総額6,350$(749,300円)の支払いをすることになるという。先ず、最初に自己免責額として4,000$(472,000円)を支払い、通院1回ごとに60$(1$=118円)を支払い、さらに患者負担として2,290$(270,220円)の支払をする必要があるという。ただしこれは保険会社のリストに掲載されている医者、病院での話で、リスト外の医者や病院の場合は15,000$(1,770,000円)にもなるという。しかも毎年保険料を4,800$(566,400円)支払って、この治療費負担である。公的保険とは名ばかりで、これでは無保険者が4,700万人というのもうなずける。その点で日本の医療保険制度は素晴らしいと思う。しかし財政的に立ちいかなくなっていることも事実である。この素晴らしい制度をどう維持していくか真剣に考えなくてはならない時が来ている

 

(つづく))

 

〔タマヰニュース2015年 3月号より転載〕