コラム

今月のコラム

2016年06月号

歯科医院経営を考える(465)
~新幹線のお掃除劇場~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 昨年夏、仕事で仙台に出張した。東京駅で東海道新幹線から東北新幹線に乗り換えるためにホームに行くとパチパチと手をたたく音がしたので目を向けると、新幹線の車内掃除の人が掃除を終えて整列をしており、その人たちへの乗客の拍手であった。それが今話題になっている「新幹線のお掃除劇場」(JR東日本の新幹線車両の掃除請負会社、通称「テッセイ」)の社員たちであった。

 

新幹線の停車時間は12分、乗客の乗り降りする時間の5分を引くと7分しかない。その7分の間に1組22名の社員が1人で普通車一車両(100席、グリーン車、トイレは3人で)清掃活動を行う。ゴミ拾い、座席の回転、窓やテーブルの拭き掃除、床の掃き掃除、座席の背もたれカバーの交換、荷棚の忘れ物チェック等すべて一人で完璧にこなすことから、海外メディアで「新幹線お掃除劇場」として話題となり、アメリカ・カリフォルニア州のアーノルドシュワルツネッガー知事やフランスの国鉄総裁等が見学に訪れている。国内よりむしろ海外で「セブンミニッツミラクル」として有名で、世界の多くのリーダーが学ぶアメリカのマサチューセッツ州にあるハーバード大学・経営大学院や同大学の企業幹部向けの教材としても取り上げられているという。何故そのように話題になるのか?7分の間に複雑な作業を素早く成し遂げる様がまるで劇場のパフォーマンスのようだということから呼ばれているが、それだけではない。

 

「掃除」と言うと3K(きつい、汚い、危険)の典型的な仕事で、失業した人とか仕事の無い人が一時的にやる仕事という位置づけで誰も真剣に取り組もうという人はいない。そのような働く意欲のない人に規律と喜びを与え、生きがいを見つけ出させる仕組みを作ったマネジメントに感銘を覚えるからである。この新幹線劇場を作り上げた矢部輝夫氏(同社の「おもてなし創造部長」)が目指したものは、お客様に旅行の満足を持ち帰ってもらう「旅の思い出作り」であり、それが「仕事」の成果ではなく、使命(ミッション)だとしている点にある。(矢部輝夫著「奇跡の職場」あさ出版)従って「徹底した規律と指揮命令」「絶妙のチームワーク」「やりがい、喜び、誇り」が不可欠だと断言している。

 

話題になるにつれて、軽い気持ちで応募してくる人も多いそうだが、業務内容の大変さに挫折してしまい続かない人が多いそうだ。「テッセンの根幹をなすのは、オペレーションを完壁に実行するための指揮系統と管理体制だ」(同書129頁)と言い、担当する車両が入線する3分前までにホームに到着し、列車が来る方向に向かって一列に整列し、列車が入ってくると深々とお辞儀をして迎えるのだという。礼は安全確認でもあり、掃除以上のサービスを目指す心意気なのだろう。夏にはアロハシャツや浴衣を着たり、帽子にハイビスカスや桜の花をつけるなど社員のアイデアを取り入れてすがすがしく且つ楽しく実践している。

(つづく))

 

〔タマヰニュース2016年06月号より転載〕