2016年02月号
歯科医院経営を考える(461)
~待遇の改善とルール作り~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
介護や看護、建設業界をはじめあらゆる業界で人手不足が深刻化している。同時に給与賃金も上昇してきている。日本商工会議所が昨年8月に「人手不足への対応に関する調査」を実施しているが、それによると、特に人手不足が深刻化している業種は介護・看護業界で72.2%が不足を訴えている。その他運輸業が60.9%、建設業が60.7%である。その中でも特に一定のキャリアを積んだミドル級の人材への要求が67.9%と最も強く出されている。歯科医院の場合でも医療法人等は別として、個人の歯科医院では衛生士は勿論、受付や歯科助手の人手不足が深刻化している。ただ全ての歯科医院で深刻化しているのか、といえばそうでもない。
歯周予防に力を入れ衛生士が4人(内常勤3人)もいるM歯科医院で受付の採用募集をかけたところ、直ちに5人が応募してきた。その中ではすでに病院での受付や一般企業での受付経験がある者もいて即活動できる人材がいる。その歯科医院は大都市の郊外で下町にあり立地条件もそれほど良いわけでもないが、その医院のホームページには「生涯にわたり、あなたのお口の健康に貢献できることが、私達の願いです」とある。そうして院長の診療方針や院内の診療風景が出されており、勉強会やミーティングの風景写真も出されていて親しみ易い好印象を与えているのが特徴である。結局5人のうち、独身女性で病院の受付経験もある41歳の女性に決め採用通知を出したところ就職を断られてしまった。面接も終え二度も見学しての結果がノーとなり院長が落胆することしきりである。
何故断ってきたのか?いろいろ理由を当たってみるとそれは待遇面の問題である。通勤費は月額2万円まで支給すると答えているが、実際にかかる交通費は23,500円である。つまり3,500円は本人負担になる。それに有給休暇についての説明があいまいであり、給与規定はなく、就業規則も2ページ程度の簡単なものしかない。有給休暇は労働基準法で規定していることだから、「規定通りに対応します」と言えばよいし、またその通りに対処すべきである。給与規定はきちんとしたものを整備すべきであり、通勤費についても本当に優秀な人材を確保したいと思うのであれば、非課税の範囲(交通機関利用の最高額は10万円)は考えるべきである。大企業と行かなくても中小企業に十分対抗できる待遇条件を考え、その上で給与規定及び就業規則を整えるべきである。採用の競争相手は他の歯科医院ではなく、中小企業と認識すべきである。
(お詫び)12月号で「国は衛生士の数を減らそうとしているという話を聞く」と書きましたが、全くのデマでした。ある県の歯科医師会理事の先生の話を確認せずに記事にしてしまい誤解を与えましたことをお詫び申し上げます。事実は全くその逆で、衛生士の離職を防ぐ対策を打ち出しているというのが実態のようです。
(つづく))
〔タマヰニュース2016年02月号より転載〕