2016年04月号
歯科医院経営を考える(463)
~億円以上の自費収入~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
東京の渋谷で開業している歯科の先生とはもう35数年ほどのお付き合いだが、先日久しぶりに都内でお会いした。その先生は家賃が月額974,000円(1坪当り48,000円)という、とんでもない場所で開業している先生である。そのような場所では保険診療中心では経営が成り立たず、収入に占める家賃の比率も15%以内でないと経営は安定しない。その先生は従業員がおらず奥さんと2人で経営しており、気楽に経営できるのである。その先生の場合インプラントを何本も入れているかといえば、先生の方針としてまったくインプラントには手を付けないという方針である。歯内療法や歯周治療等々の治療を手掛けておられ、時には抜けた歯を移植する等も実施されているようである。かなり個性の強い先生だから患者に迎合せず、独自の方針、価値観を貫く経営をされている。その先生の所に来る患者が言うには、近くの大きい歯科医院に行ったら、やにわに自費診療を勧められたが、それでも「保険で!」というと院長がスーと消え、代わりに若い歯科医師が出て治療を受けたが麻酔の注射を打たれて削られたが痛みが取れないのだという。都内の地価高騰地域では、高い家賃は当たり前だが、治療生産性の悪い保険診療では全く採算が取れないのである。
歯周のメンテナンスも保険ではなく自費扱いで1回が15,000円から20,000円程度を徴収しているが、この金額でも採算がとれないようである。しかし保険診療の看板を掲げて患者を呼び込まないと患者の確保ができないというジレンマに陥っているのである。この先生の場合も保険診療をやっており、患者の希望するようにまず保険で治療をし、その後通院して治療を受ける中で保険診療と自費診療の違いを説明して、自費診療を行うというパターンで診療しているのである。最近はジルコニアのクラウン等が相当数出ているようだ。
少なくとも自費診療が年間2,000万円を超えないと都内では経営が成り立たないのではないか。だから衛生士や受付を教育して自費診療を積極的に奨めさせ、中には奨めていた患者が自費治療を受諾すれば治療費の何%かは給与に反映させている歯科医院もある。その歯科医院の院長の方針と周囲の環境によって、患者の所得階層にも大きい格差が生じているようだ。千葉市の郊外に城壁を巡らせ、管理人が24時間詰めているという高級住宅街があるが、その中に50数種類ものバラで囲った大きな邸宅を作り、音楽会や料理講習会を開催して患者を接待している歯科医院がある。自費収入が億円以上になるという医院は、スタッフに自費を勧めさせる等しなくてもすでにそのような富裕層の患者層が厚くなっており、無理することなく自費収入が挙がる経営になっているのである。
(つづく))
〔タマヰニュース2016年04月号より転載〕