2018年10月号
歯科医院経営を考える(493)
~専門医のチーム医療~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
知り合いから歯科医院を紹介してくれと言ってきた。どうしたのか?と聞くと、歯がぐらぐらしてきたので近くの歯科医院に行ったら、即座に「抜きましょう!」と言われて驚き、助けを求めてきたのである。どうしても抜かなければならないという場合もあるのかもしれないが、もう少し患者の歯に対する思いを聞いてもらってもよかったのではないかと残念に思う。この患者は生まれて初めて歯科医院に行ったという患者である。そのような事前の情報も予め受付で聞いておくべきであるし、そういう事情が分かれば、口腔内の病状、歯の磨き方や歯への思いも聞き出すことができる。そうすればどうしても抜歯しなければならない事情があっても、その理由、事情を詳しく説明し納得のいくように話せたと思う。都心部で開業している先生を紹介させてもらったが、どのような立地条件でも患者の思いを知るということは極めて重要になってきているのではないか。先生にお任せしますという患者がいるが、それは先生の人間に対する全幅の信頼を表現した言葉だと思う。なおこの患者は資本金5億円の中小企業のオーナー会長だが、心臓手術を受けて障害者手帳を持っている患者でもあり、健康に対する意識も高く、キチンと理解すればどのような負担にも耐えられる患者でもある。医療は今患者一人一人に寄り添う姿勢が求められていると思う。大都市で開業している先生から、分院開業の案内状を頂いた。そこには以下のような文章が書かれていた。「私達が行う全ての歯科医療行為は科学的根拠に基づいています。しかしながら、最も重要なのは患者さんの希望と意思を尊重することです。科学的根拠(サイエンス)に基づきながらも、患者さんの個性(アート)を大切にし、ひとりひとりに最適なテーラーメイド型歯科医療を提供します」とある。その先生は歯周・予防を中心に診療を続けて来られた先生だが、息子さんがアメリカのインプラント学会、補綴学会の専門医、それに勤務医の先生も歯内療法の専門医といった専門医のいる分院を開業された。やはり大都市ではそれぞれの分野の専門医がチームを組んで診療する体制が不可欠になってきていると思う。ただその場合保険はごく限られた範囲に制約されているから一般的には自費診療が中心になるが、患者自身も理解すれば自己負担の重さ以上に自己意識、健康への期待が大きいことを再認識するべきである。
(つづく)
〔タマヰニュース2018年10月号より転載〕