2018年 4月号
歯科医院経営を考える(487)
~種子法廃止の影響~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
現在住宅街の一角に住んでいるが、10分ほど歩くと田園地帯になる。その農家の人が週に1回程度、野菜やトマト等をリヤカーや自転車に乗せて売りに来る。今年は厳寒と大雪のあおりで野菜が高騰し、そういう光景も少なくなったが、その農家の人が言っていたことが頭に残っている。売るトマトには虫がつかない薬剤を蒔くが、その薬を使うと手が荒れて困る。自分の家で食べるトマトにはその薬を使わないものを食べており、余ったものを売りに来ているのだという。毎日食べている米や大豆、野菜等について現実をしっかり見つめておく必要があると思う。主要農産物種子法(種子法)が今年の4月1日に廃止される。この法律は、主食の米、麦、大豆を対象に1952年に制定されたものだが、種子を公的に守る政策という位置づけだ。余りマスコミでは取り上げていないが、今後の我々の食生活に大きく影響を及ぼす法律の廃止だと思う。現在国や都道府県の農業試験場が品種改良をした種子を奨励品種に指定して低価格で農家に販売されてきた。米の場合地域の特性に応じて約300種類の栽培品種があると言われている。これは食糧安全保障の観点から産地の分散化と品種の多様性を確保するという視点や、農家自身が種子を保存して翌年の田植えに備えるといった自主性の確保が目的とされている。ところがこうした公約な農業試験場が縮小され廃止されると、種子の値上がりやその地域の気象条件に合った種子の育成が不可能になる。当然種子の価格が上昇することは明らかで、京大の久野秀二教授の資料によれば、福井県の「コシヒカリ」は20g当たりの生産者渡し価格は7,920円、宮崎県の「ヒノヒカリ」が7,670円、これに対して民間M社の「とねのめぐみ」は17,280円だという。民間が開発した種子の価格は極めて高価で、現在は高価であるため売れないが、公的資金がつぎ込まれなくなったあかつきには種子の価格が高騰することは必至だろう。高齢化の激しい農家は全滅せざるを得ない。それよりも民間企業の種子は優れた特性を維持できるのは一代限りで、農家による自家採取ができない仕組みになっている。一旦その種子を購入すると、その品種に最適な農薬や肥料、農機具を購入せざるを得ない仕組みが延々と続く。里山・田園の風景が消えてなくなるのも時間の問題ではないか。
(つづく)
〔タマヰニュース2018年 4月号より転載〕