2020年11月号
歯科医院経営を考える(517)
~医療法人設立の目的~
デンタル・マネジメント
コンサルティング
稲岡 勲
厚労省の調査による令和元年10月1日現在の「開設者別にみた医療施設数」では平成30年から令和元年の1年間に個人の歯科診療所は53,682院から令和元年の53,133院へと1年間で549院減少しているが、一方で医療法人は14,327院から14,762院へと435院増加している。単純に考えると、1年間で廃業した個人の歯科医院の約8割が法人化したことになる。医療法人化の流れが加速しているように思う。ただ医療法人の設立に関する条件が年々厳しくなり、以前のような医療法人設立の節税メリットが小さくなっている。以前は医療法の規制がゆるく法人の解散時には出資金が、出資割合に応じて戻る「持分の定めのある社団法人」の設立が可能だったが、平成19年施行の第5次医療法改正から認められなくなったから、法人設立の金銭的なメリットは薄くなってしまった。ただ第5次医療法の改正以前の法人を買い取って法人化するという手法で法人化している例もあるが、都道府県の医療審議会の審査を受ける必要があるので簡単ではない。設立条件はそれだけで厳しくなってきているということだろう。また医療法人の解散も簡単には認められないから、安易な法人設立は避けるべきである。国も医療法人の公的性格を高めようとしているように見える。ただ厳しくするだけでは法人が増えないからか「基金拠出型法人」を認めている。これは活動資金の調達手段として、定款で定めたうえで、基金を募集し、利息は付かないが返還も可能としている。いずれにしても最近の医療法人設立の目的が、節税等ではなく、純然たる法人設立の目的、すなわち個人の所有ではなく独立した経営組織体として運営するという本来の目的で設立する例が多くなったということだろう。例えば年間収入や経費の目標を決めておき、決算期(自由に決められる)の結果に基づいて、目標以上の利益が出れば、職員に臨時ボーナスを支給して実績を伸ばしている医院や、勤務医の先生の退職金制度を作り、一生その医院で勤務しても退職後の生活設計が可能になるよう制度設計をしている歯科医院もある。また組織力を生かして地方の歯科医院過疎地に分院を作り、通院専用バスを走らせている医療法人もある。
(つづく)
〔タマヰニュース2020年11月号より転載〕