コラム

今月のコラム

2021年02月号

歯科医院経営を考える(520)
~院長の閉院計画~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 先日A歯科医院の42歳の衛生士と話す機会があり雑談していると、自分の勤務している歯科医院の院長が、70歳を迎えるにあたり、あと5年診療を続け75歳になったら閉院すると話しているが、現在子供の矯正も実施しており、子供の患者をどうするのか、またこのままこの院長の下で働いていると47歳で退職しなければならなくなるが、今退職した方がよいと思うか?と言われて絶句してしまった。院長は自分のことしか考えていないとこの衛生士は考えたのであろう。彼女は現在若い衛生士3人を束ねているベテランの衛生士で主任格だが、自分の今後の人生を考え悩んでいるのであろう。助言したのは、先ず院長と話し合うこと。その際は自分の将来を考えると、50歳近くになって退職せざるを得ない環境に置かれるのは大変厳しいこと等を正直に話して、院長と話し合ってみることを勧めた。個人の歯科医院ではあっても、患者や働いている従業員にとってみれば公的な職場としての意味を持つことになる。矯正の場合は、自分の実施している治療方法と同じ方法で治療している歯科医院の院長と話し合って、その患者を引き継いでもらう準備をすべきであり、患者の意向も聞いておく必要がある。ただ同じ手法かどうかは、ある程度時間をかけて情報収集しないと分からないのではないか。だいぶ前の話になるが40歳代の院長が自殺して亡くなり、後に残された奥さんが矯正の患者さん一人一人に事情を話して、前金で受領していた患者さんには返金を、治療中の患者さんには同業の矯正を実施している医院に連絡して院長に事情を話し、患者の治療を引き継いでもらうよう走り回った例がある。全て解決するのに2年ほどかかったと思う。A歯科医院の場合は息子が別の場所で開業しているが、矯正の治療の方法がまったく違うから引き渡せないと思う。典型的な手法での治療ではないということなら、なおさらのこと長期にわたって計画的に引き際を考えるべきである。事業を閉めた時点で、患者を路頭に迷わせないためにも事前に説明し、患者を引き渡す先生にも患者の個人情報に配慮しつつ情報を伝えておくべきである。北欧の国だったと思うが、閉院する時はカルテも添えて有料で他の医院に引き渡すという方法で引き継いでいるという話をきいたことがあるが・・・。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2021年 2月号より転載〕